ドレープとクリームとスカートの中身



話し相手に成って欲しいと言われて通された場所はこのご時世では珍しい、大きな館の令嬢だった。戦争も何も知らない女の子だった。外ではセカンドステージチルドレンが暴れているからと、この屋敷に閉じ込められているらしかった。だけど、外の世界に憧憬する、彼女に同情した両親が漸く私と言う存在を宛がう事にしたらしかった。「ベータ、あのね、外の世界が気に成るの」そうふんわり、甘い甘い綿菓子の様に笑って。ベータと私を呼んだ。太陽の光すらもあまり浴びていないのか、白い日に焼けていない肌を晒している。ドクン、と脈打つ心臓がやけに煩いのが、気に成った。「時々凄い音が、外から聞こえてくるんだけど、あれは何かな?」「えーと、動物さんじゃないでしょうか」



まさか、パーフェクトカスケイドのアンドロイドたちがこの館をお金積まれていて、守っている、だなんて口が裂けても言えなくて。ニッコリ笑顔を湛えたまま、お話をした。「ベータあのね、お洋服着てみない?」「へ、え?」そう言って衣装の沢山入っている、クローゼットを開けた。私には似合わなさそうな、ドレスみたいなのとかからワンピースまで沢山入っている。どれもこれも、女の子、って感じ。「これとか、ベータに似合いそうだよ?」ほら、と言って白いフリルのついたワンピースを重ねて見せた。「ね?あーあ、外に出られたら、ベータとも、お外でお買い物出来たのかな?」「そうですね」暗い部屋の中でお外の此処ではない何処かのお花畑の中で、寝転がりそっと花冠を編んで、彼女に乗せてあげたいと思った。



「ねーぇ。ベータ、お外ってどういう所なの?」「え?」また、だ。彼女は知りたいのだ。名前は外の世界が知りたいのだ。だから、私に何度も尋ねるのだ。その度に私は躊躇してしまう。名前が思っているような世界じゃないからだ。ありのままを話すべきか、いや、彼女に汚れを持ち込みたくない!「外は、太陽が燦々としていて、それから、私はカフェとかするのが好きですね」そういうと目を爛々と光らせ喜んでいる名前の目とカチッと合った。「カフェ?」「えーと、お茶を軽く楽しんだり出来る場所です」今はそんな事している人間なんて殆どいないけれど。それもこれも、セカンドステージチルドレンがのさばっているせいだ。



熱を持つ視線、最近感じるように成った物だ。名前は男の子を見たことが無い。子供に恵まれなかった、名前の両親は名前が命の様なものだった。だけど、熱を持っているのは私とて同じこと。名前は同い年の男の子を見たことが無い、だから、近くにいる私に対して想いを馳せてしまうのは仕方のない事。だけど、私の場合は違う。シルクの様に触り心地のよい陶器の白い肌、絹糸のように細いけれど艶やかで美しい髪の毛、それから、桃色の口紅を塗ったかのように潤っている唇、そして、焦げ茶色の美しい硝子玉!どれもこれも魅力的なのだ。きっと、他の男や女が見たら名前に魅了されるだろう。それくらい美しいのだ。ああ、どうして!だから、今の状況がとても嬉しいのだ。



名前の興味は外から私へと移って行った。何が好きか、何が嫌いか。どんなことをしているのか。はぐらかしたものもあるが、私への質問が多く成って行った。でも、時折つく、溜息は重ぐるしい物だった。「ねぇ、ベータ。外にはお父様の様な、だけど、私達の様な年齢位の男の子がいるんでしょう?そういう男の子に恋をするのが普通なのよね?」確かめるように探るように、慎重に。私は泰然とした態度を崩さずに答えた。「ええ、そうですね」って。その瞬間奈落の底へと落とされたかのような、絶望的な顔をしていた名前が漫ろ笑みを浮かべた。なんて儚いんだろう(美しいんだろう、名前は表情一つ一つが美しい)。



「そう、ベータ。ねぇ。ベータ。女の子同士で恋愛するのは一過性の物だと聞いたことがあるわ」「そうですね」頷いてみせた。そうすると名前がポタポタと滂沱の如く涙が溢れてきた。「そうだよね、私の想いも、ベータ。だから、ベータ、嘘なんだよね?この想いも、感情も。ベータとしか逢えないから、私は勘違いしているんだよね。ベータはお仕事で来ているのに、ごめんなさいね」そういって、ハンカチで涙を拭った。ああ、その、涙の筋を追って、舐めとってあげたい。「でもね、名前、今の世の中ってちょっと変わってきていて、女の子同士でも恋愛しても平気なんですよ」そういうとキョトンとした目でこちらを見つめていた。真っ赤な真っ赤な瞳。ああ、泣き腫らしちゃって可哀想に。



そんな嘘に嬉々として私に飛びついて来た。「本当?!ベータ!本当なのね!私ベータが好きよ!この世界の誰よりも!」私は両腕で抱き留めて初めて名前の唇に触れた。例え許されないとしても、私は名前を手放す気は無かった。元々惚れていたのは私の方。名前は私の熱の籠った視線に折れただけ。何も知らない可愛い子。一生私が守ってあげるから、どうか、この檻の中で一生私だけを愛して頂戴。私の可愛いお姫様。私名前がお姫様なら騎士でも王子様でもいいの。本当よ。


Title 約30の嘘

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