ぜんぶ、ないしょだよ?



「びーのー」「何ですか名前先輩」ぐでーっと雅野の机で伏せている苗字からはあまり生気を感じない。代わりに艶やかな黒髪をこれでもかってくらい、机の上に散らばらせている。雅野の髪の毛を見つめながら、何か不思議な呪詛の様な言葉を呟いた。「美味しそう」「は?」「いや、だから、美味しそう」「は、破廉恥です!俺の事そんな目で見ていたんですか?!せ、先輩になら、俺、抱かれても……「いや、頭が」「は?」再び目を点にして変な事言っちゃったなー自分と自分を叱咤した。「カニー。雅野の髪の毛はカニに見えます」ちょきん、ちょきんと両手を鋏の形つまりチョキの形にして、それをちょきちょき動かしていた。「カニバリズム?!」雅野がそれは嫌だと後ずさると、おいでおいで、と優しく、手招きをした。



「誰も後輩の事、食べたりしないよ。多分」「多分?!不穏ですね!」手招かれたままにそのまま、苗字の元へ戻れば、不穏な言葉を吐きながらニィと口元だけ笑わせた。「びの。可愛いなー」「俺の身長がですか?」「うん」「ほらね!!貴女はそういう人だから!知っていたから!つら……」不意に細い腕が伸びてきて、その繊手で雅野の頬を撫ぜた。「頭撫でさせて」「嫌です。先輩はすぐに俺をそうやって可愛がろうとするから嫌です。俺は男なんですよ?!」「でも、少し前まではランドセル背負っていた、ね?」ランドセルの頑丈な作りに変える必要も無いか、と雅野は小学六年生まで使っていた。でも、それは前の話であって。顔を羞恥と怒りに染めた雅野が「先輩なんてもう知りません!俺、怒りました!」と言って駆けて行った。



「……追いかけてこないな……ふっつー、此処は追いかけてくるだろう?俺、そんなに意識されていないのかな」屋上で背を丸めて、膝を抱えた雅野が溜息を吐いた。悔しいだとか色々な感情がごちゃごちゃに成っていた。あの苗字は電波な所が少々あるけれども、雅野と同じ小学校に通っていてそれなりに付き合いは長く、今だって、雅野のお願いでサッカー部のマネージャーを務めている。それなのに、距離を縮めようとしたら、遠ざけられ、引けば、少しだけ詰めてくれる。そんな一定の距離感しか彼女は与えようとしなかった。カツン、カツン、誰かが屋上の階段を上ってくる音がした。靴音を響かせながら。カツン、カツン。キィ……ドアが半開きに成る。風が不意に強く吹き付けた。



「びの、此処に居た。探したよ」「名前先輩……っ、べ、別に嬉しくないですよ」本心とは真逆の言葉が、勝手に誰かが雅野の口を使っているのか、出て行った。しまった。と思った時には遅かったが、それでも、にやにやとした苗字と目があった。それは蹲っている雅野を俯瞰する形と成った。「ちょっと買い物していたら遅く成っちゃった。ごめんね」「だから、待ってなんか、」そこで言葉は途切れた。はい。と差し出された、パンに目が丸くなった。「かにパン……ぶっ。そんな物買いに行っていたんですか?」笑いが込み上げてきた。苗字は何処か誇らしげに言った。「雅野のパンだよ。一緒に食べよう?」「はい」「ん。じゃあ、仲直り。半分こしよう」



そう言ってパンを半分に綺麗に割ると片方を雅野に渡した。「あのね。びの。びのの事男の子だと思っているよ」その言葉に雅野が渡されたパンを落としそうになった。赤面した雅野が「あー、そうですか!」と苦し紛れに一声零したのだった。



Title とむぼーい

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