プラスチック属性の祈り



まるで女神様。男だけど。亜風炉君は、とても綺麗だ。そこら辺の男や女子なんかじゃ太刀打ちできない程に綺麗だ。瞳は赤くルビーの様に美しく、その金髪はいい香りがする黄金。手足はすらりと長く指はまるで白魚の様に細い。だから、色々な人が彼を愛したり、好きに成ってしまうのは自然の摂理と言っても過言ではなかった。それくらい普通の事と受け入れられるくらい彼は完璧にほど近い人間だった。私は遠くから眺めるだけで十分だった。別に女神さまから偏愛されたいとか、彼から愛の言葉を囁かれたいとかそんな事一切思ったことは無く、接触は片手で足りる程であった。別にそれで良かった。私は人間だから、女神様が私を愛してくれるなんてあり得なかったから。



所が、それが変わったのは。彼が雷門に負けてからだった。あんなに神々しかったのに、僕は神なんかじゃないよ。って漫ろ笑みを浮かべて、ぼんやり空を見上げるようになった。だけど、その神秘性や、美しさは失われることは無かったので、やはり憧れる女子は多かったし、告白だってよくされているのを噂で聞いた。それでもふうーん、やっぱりね。って思うのは私が彼を恋愛対象としては見ていないからに違いなかった。そんな中女神アフロディーテと席が隣り合わせに成ったのは、くじ引きの結果だった。最初は目の保養だなって思った。だけど、それだけで済まなかったのは、彼に告白して受け入れられなかった、彼女たちの嫉妬からだった。



「貴女が、亜風炉様の隣なんて烏滸がましいのよ」「汚れるわ」等の罵声を浴びせられたが、くじ引きだったから仕方ないと言うだけだったし、私は彼の事を好きでも何でも無かったのでそう言ったのだ。彼女たちは次第にそれが事実だと知って、私を罵ることをやめた。だけど、それを聞いていたのは彼女たちだけではなく亜風炉君の耳にも届くことに成った。しかも誇張された噂で。彼に恋愛的興味がない、くじ引きで隣に成ったが本来の話のはずなのに色々尾ひれがついたのは、予想外だった。そして、恐れ多い事に事実とは異なる亜風炉君が嫌いだってことに成っていたのには驚いた。亜風炉君が私を呼びだしたのはある意味それを気にしてのことだったのかもしれない。



夕暮れ色の空にカーテンが色づいた。綺麗な琥珀色の髪の毛は美しくたなびいた。「僕の事が嫌いだって本当?」亜風炉君は何処か悲しそうな瞳で私に問い掛けた。どうして、そんな目をするのだろう。興味のない人間一人に嫌われたところで別に何の支障も無いはずだ。私は答えようとしどろもどろに成りながらもなんとか言葉を紡ぎ出した。「それは女子に色々言われた時に、言った言葉が、変に噂に成ってしまっただけで決して亜風炉君が嫌いとかそんなんじゃないんです」美しい宝石をはめ込んだような瞳とかち合った。何処か安堵の表情を浮かべた、亜風炉君が居て、なんて人間らしい表情を浮かべるのだろうと思った。



「良かった。僕は苗字さんに嫌われたらいやだなって思っていたんだ」「それはどうして?」「それは……」そこまで言っておいて言葉を詰まらせた。困ったように眉根を寄せて何かを思案している。言いづらい内容なら別にいいよと言って誤解を解いた私は帰り支度を済ませようと思い呼びだされた誰も居ない空き教室から帰ろうとすれば、腕を掴まれた。「待って!僕はっ、君に見向きもされないような男だけど、君が好きだ!」「えっ……」今度はこちらが言葉を詰まらせる番だった。何で片手しか関わっていないような人間を好きに成れるんだろう?罰ゲームか何かなのだろうか?って思い怪訝そうな顔で彼を見上げれば切羽詰まったような表情をしていた。



「最初、噂で君が僕に興味がないって聞いたとき胸が痛んだ。席が隣同士で、こんなにも近いのに触れられないのに、僕はもどかしい感情を覚えた、いつも横顔ばかりで、僕はそれを目で追って。その時に気が付いたんだ、僕はこんなにも、苗字さんの事が好きなんだ、ってね」最初は風の噂からだった。とポツリ呟いた。女神様からの寵愛を得られるのが難しい事だと知りながらも私は、女神様は女神様だから崇拝の対象には成れど、愛情を向ける対象には成らないと知っていたからだった。でも感情、思考とは別に、コクリと頷いて女神様の偏愛を受け入れていた。



あれから変わったことと言えば、女神様が私の家を訪ねるように成ったり、名前を下の名前で呼ぶように成ったりだ。女子からは僻まれている。嘘つき呼ばわりされた。事実、私もそうだと思うので、好きなように呼ばせておいた。私からは一度も睦言を囁いたことは無かった。だって、好きじゃなかったから。だからだろう、手は繋げた。だけど、キスを拒んでしまったのだ。「ご、ごめんなさい」「……」女神様は黙ったままだった。ただ暗がりの中で光を失った宝石のような瞳が歪んだのを見た。「どうして、僕の告白を受け入れたんだ」「わからない」そう、そこがわからなかった。若しかしたら好きに成るかもしれないとか、そんな生易しい物だったのかもしれない。だけど、それが女神様を途轍もなく傷つけているとは思った。「だって、亜風炉君は私の女神様だから」男に対して言う言葉ではないと知りつつもずっとそう思っていたと告げた瞬間、壁際に私を追い詰めて行って、手を壁に付き私の顎を掴んだ。



「僕は神じゃないよ。僕は亜風炉照美っていう君に焦がれている一人の男でしかない」そう言って私の唇を無理やりに奪った。唇は柔らかくて、ああ。私の中の女神様の像が破壊されていくのを瓦礫の山に成っていくのを感じた。「だから、君の中にいる、神様の僕を殺すしかない」そう言って再度口づけられた。何度も何度も繰り返されるそれに、窒息死してしまいそうな感覚を覚えて、目を開けて女神様の姿を確認したとき、そこに居たのは一人の男の子だったことに気が付いた。なんで、こんな単純な事に気付いてあげられなかったんだろう。


Title 約30の嘘

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