穢れて汚れた、僕の華売り娘に復讐を



葵は天馬が好きだった、知っていた。だからこそ、目の前でキスをしてやったのだ。私と天馬は付き合っていた。裏で秘密で内緒で付き合っていた。葵には勿論知らせずにだ。そして、葵が通る道の電柱の陰でこっそりとキスをしてやった。見ていると知りながら。見せつける様に何度も角度を変えて、口付ける。天馬とキスだなんて考えるだけでも反吐が出そうだけれどこれでいいのだ。植え付ける感情は負のものでいい。愛などと言うのは中学生には重すぎて抱えきれない荷物のようなものだ。でも、私は愛しているのだ。愛してやまないのだ。抱えきれない荷物は地面に置いて、諦観して。それでいい、それでいい、と言い聞かせている。本当は愛されたいくせに、叶わない願いだからと諦めて、最初から憎まれる役を演じてやろうと決めたのだ。



「……名前、」天馬の声が遠く遠くから聞こえてきた、鼓膜を震わせる。肌を撫ぜる、頬を掠める天馬の指先、いつもの元気で明るくて恋愛事には疎いような天馬とは大違いだ。葵の視線は未だに釘付けだ。私はニィと口角を持ち上げて天馬の頭に手を回す。「天馬、もうやめよう、人が見ているかもしれない」「だって、俺、ずっと我慢して」「あとは家に帰ってからにしよう?ね?」天馬は所謂、私の都合の良い道具だ。かわりに私と言う傀儡を捧げて、想いを削っている。葵は涙目で駆けて行った。バタバタ、足音が聞こえて天馬がハッと現実に引き戻されたように目を見開いた。「あれ?!今、人がっ……!」「ほら、見られちゃったよ」葵に、ね。



私は天馬が好きではない、葵が好きなのだ。だけど、叶わない恋だった。愛しいあの子は天馬が大好き。じゃぁ、どうしたら私が何かしらで彼女の中で一番に成るか考えた。考えて考えて考えあぐねた結果、憎しみでその心を満たせたらいいと考えた。だから、葵に天馬とのキスを見せつけた。これできっと明日からはぎこちない交友関係に成るだろうがそんなのどうだっていい。ねぇ、葵。今、私の事憎い?それとも大嫌い?裏切られた気分?それとも全てを含意している?私どれでもいいの。本当にどれでも。貴女に何かを思ってもらえるだけで私、“幸せ”なの。多幸感に満ちるの、ああ、葵、葵、葵。



「天馬、もう外でキスは無しね」「えーっ!そんなぁ!」だって、貴方は恋敵なの。初めから眼中にはないの。翌日、葵から話があると言って屋上に連れて行かれた。葵の握りしめられた拳はわなわな震えていて、感情を制御しているのが窺えた。「名前ちゃんは……」そこで一度言葉が途切れた。涙の膜が張ってある。今にも零れ落ちてしまいそう、それを舌で追って舐めてあげたい。「私が天馬好きなの知っていたよね」「うん、知っていたよ」そこまで言うとポタリ地面を黒く染めた雫が形を失った。「じゃぁ、どうして」「それはね、葵が好きだからだよ」意味が分からない、と言った表情で絶句している葵に畳み掛ける。「わざとだよ、愛しているから。憎しみだけで満たして、私を刻んで」


Title すいせい

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