酷い夏の予感がする



喜多が病んでいる。見えない彼女。


もうすぐ夏がやってくる、今年も真夏日和の予感がする。俺の彼女はどんな水着姿で来るのか楽しみだ。彼女は去年も俺に大胆な水着を見せてくれた。まだ、中学生だから発育途上の胸や、太もも、或いは腰などに視線が集中してしまうのは俺も同じく中学生だから、詰まり脳内がデロデロに溶けきったバニラアイスクリームのようになっているという事なのだ。だからと言って、不健全なお付き合いはしていないつもりだ。何せまだ、お互い中学生だから、責任の撮れる年齢に成ってから彼女を貰いたいとそう思っている。ああ、でも手は繋いだかな去年の、そうだ、冬に寒く悴み赤みを帯びた冷たい手に息を吹き込んでこすりあわせていたから、ポケットに手を突っ込んでいた為まだ温かった俺の手で包み込んであげたのだ。



それから、そうそう、キスもした。あれは去年の夏頃だった、日付まできちんと覚えている当たり俺は女々しい、だけどもそれくらいに俺にとっては衝撃だったのだ。ファーストキスとはレモンの味がするなどと巷では言われていたけれど、そんなことは無かった。ハッキリ言って浪漫のある少し古めの映画のワンシーンを切り取ったかのように時が止まって、動けないまま、夏のあの独特の温い風が顔を撫でたのを覚えている。柔らかかったとかそういう感想が出てくるように成ったのは二度目三度目、と回数を重ねてからだった。最初が印象に残るというのを如実に物語っていた。



「今年も、名前と夏に海に行きたいな。それから花火を見て、祭りに行って、……やりたいことが沢山すぎて困っているんだ」「……喜多」憐憫するように彼らはいつも言う。「名前はもういないだろう」「何言っているんだ、いつだっているさ」「心の中に?とでもいいたいのか?美談で済ませようとしても現実から目を背けても」名前はもういない。冷たく地の底から這い上がってくるような声が聞こえる。ぞくぞくと背中を走り抜けていっては、また、地面に帰ってゆく。俺は笑顔の仮面をつけたまま言う。「海に行きたいな」

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