ほつれたスカートはやがて毛糸玉に



If、蘭丸の女装癖


ヒラ、ヒラリ。揺れるスカートの裾が美しく光の下に晒された。柔らかな、素材からは太陽の匂いがして。ふわふわ。まるで、綿菓子のように軽くて甘そう。「どうだ!名前。新しいスカート!」くるんと一度、回転をした。スカートを強調して見せると名前は複雑そうに眉をひそめていた。「あー……、あのねぇー。あー……」妙に歯切れ悪く、あちこちに視線を彷徨わせながら名前は必死に言葉を探しているようだった。よく名前は、俺に女装させて喜んでいたというのに。最近は複雑そうな顔をする。そりゃー、俺だって最初は女装なんて嫌だったさ。でも名前が喜ぶから。……それに良く見ればスカートや女物の服も悪くないと思うんだ。寧ろ可愛くて、選ぶのとか着るのが楽しい。男物だと此処まで選択肢もないからこそ、見ているだけで楽しいと思えるようになった。



「あー。蘭丸いつから、女装癖が……?」若干引いたような、口元を引き攣らせながら俺の着ていたスカートの裾をつかんでまじまじと見つめた。ああ、成るほど羨ましいんだな。じゃあ、俺とおそろいのでも着て、町にでるか?「あ、名前も着たいのか?いいよ。そういうと思って、ほら」名前には薄い、水色の用意しておいたから。と紙袋から出して渡すとますます顔を引き攣らせていた。……ピンクのほうが良かったのだろうか。実はどっちがいいだろうと少し迷ったんだけど……ああ、そっか。じゃあ、俺悪いことしたな。「ね、ねぇ……私の質問に答えてよ……。私のせいで、女装癖でもついちゃった……?」こめかみを押さえながら、名前がいつものトーンより低く言う。恐る恐る否定してほしいと言った風だったが「……そうかもしれない」真顔で言うと名前が大きな目を零さんほどに、見開いてすぐにため息を吐いた。「……あんなに嫌がって恥らっていた蘭丸がついに……新しい扉を開けてしまった。大人の階段を一段ずつ上るどころか、三段飛ばし位で上ってきたわ……」



まだ、ぶつぶつと真剣に悩んでいるようだった。もう悩むのはやめて、俺と一緒に出かければ良いのに。今日は最高にいい天気だぞ。快晴で、雲もいい具合にでているし……何より丁度いい気温だ。暑くも無く、かといって寒すぎもしない。「……心が女、とかそういうのじゃないよ、ね?まさかの、蘭丸と百合フラグなの……?」名前が心底心配しているような顔で俺のことを見上げてきた。それはない。大事なことだからもう一度言おう。それはない。……俺は名前のこと愛しているし……。流石に男には興味が無い。



「……男だから、百合じゃない」「だって、スカート穿いているじゃないの……。男の娘なのね……」名前が俺のスカートの裾をひらひらと揺らしながら、ぼんやりとした影を作る。影も手の動きと一緒にゆらゆら、揺れる。俺はもう、この空気が嫌だった。別にいいじゃないか。面倒くさい、人の趣味に口出さないでくれ。大体、七割ぐらいは名前のせいなんだからな。俺のこと女みたいに扱って!それによって開花したんだ。まあ、ある意味感謝しているが……。「意味がわからないな。兎に角、だ。……出掛けよう?ほら、折角お揃いの新しい服だし。ほら、着てきて」



「ええ……」とあまり乗り気じゃない名前の手をぐい、と掴んで重たい腰を無理やりあげさせる。華奢なそれは渋々と言った感じに持ち上がって、やがて自室へと身を隠した。そして、俺と色違いのそれを着てきた名前と俺は町へと繰り出した。甘い青とピンクの色彩はきっと目を引くんだろうな。


Title 彗星

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