そんなのじゃ捕まえられないよ



いつもの帰り道、他愛もない会話をしながら後輩の風丸君と並んで歩いていた。不意に風丸君が電柱を見て口を開いた。「ねぇ、先輩競争してみませんか?二つ先の電柱まで」これは、後輩からの挑戦だろうか。私も一応陸上ではあるけれど……最近はタイムが伸び悩んでいる。そのため一瞬言葉を詰まらせた。後輩に負けたら先輩の面目は丸つぶれだ。「……」黙っていた、私を心配そうに風丸君が覗き込んできた。「どうしましたか?」「い、いや……。やろうか」肩に掛けていた、鞄を少しだけずらして自信なさげにそういうと風丸君は笑った。「そんなに緊張しないでくださいよ。軽く行きましょう?」そうだよね、これは大会ではないんだ。一度大きく冷たい空気を吸い込み、それを吐き出した。「じゃぁ、いきますよ〜」



合図の後に走り出す、風を切りそれが途轍もなく気持ちいい。だが、それよりも後ろからの追い上げが気に成る。風丸君は早い。陸上の中でも、上位の人間だ、それが私の後ろを走り続けるとは考えづらい。しかし、後ろを振り返るのは怖い。足がすくんでしまう。それを無理やりに前に前に進めていく。二本目の電柱がもうすぐだ。私は最後の力を振り絞って、全力で駆けた。二本目の電柱を追加して少ししたところで少し荒くなった息を吐きながら風丸君を待つ。といってもまつって程ではなかった。私の後ろをびったり張り付いていたかのように肩をとんと叩かれた。「先輩。お疲れ様です。俺の我が儘なんかにつきあってくれて有難うございます」なんてイケメンスマイルで汗一つかいていない風丸君が私を労ってくれた。



「風丸君、全力出していないでしょう」そういうと風丸君の口元が三日月に歪んだ。瞳も恍惚とした瞳をしている。「そんなことないですよ。先輩の実力に負けたんですよ」そういうけれど、何度も嘘だと言えば渋々と言ったように言った。「……先輩の後ろを追いかけるのが好きなんです。ずっとずっと追いかけていたいんです。先輩が大好きなんです名前先輩は俺の憧れであり、思慕している相手なんです」私の背中を追いかけて意味なんかあるのだろうか。風丸君はちょっとわけがわからない。だけど、この瞳に飲み込まれたら帰れない事だけはわかる。


Title 彗星

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