だれでも好きなひとと



長い、長い気が遠くなるほどに長い行列の最後尾付近で私たち二人は痛む足から、気を紛らわせようと別のことを考えたりお話したりしながら、待っていた。ゆうに三十分は待っていたと思う。「ああ……、全然前が進んでいる気がしないよ。……せーりー?大丈夫?」「大丈夫に見えるか?……何故、前に進まないんだ」迫は飲み物が飲みたいな……と、疲労が見える顔で一向に進まない行列の前をジッと鋭い目で見据えた。せめて、日陰に居たいのだが、日陰は随分と前にある。倒れてしまわないように、ぐっと足に力を込めた。「大体、本当にうまいのか?並んで、大して美味しくもなかったら俺……」気が滅入ってしまっているのか、じりじりと照りつける暑い太陽を睨みつけて恨み言を呟いている。(あの迫が此処まで追い込まれる、行列怖い)



「大丈夫、美味しいに決まっているよ。だって、雑誌に載っていたし!それに、今凄い、人気なんだからさっ!少しは信じよう、ね?」迫を元気付けるように、明るい声のトーンで言う。元はといえば、私がここのケーキ凄い美味しいんだよっ!なんて、言うからいけないんだよな……。「……だと、いいな。この炎天下、よく皆並ぶなぁ……」ウェーブのかかった、長い前髪を煩わしそうに手でどかした。たまにちょん切ってしまいたくなるのだけど、そんなことしたら迫が迫じゃなくなる気がする……。「私たちも人のこと言えないけどね。ケーキ買ったらさっさとうちに帰ろう?で、迫の好きな飲み物かってさ!」と、言うとその情景を想像したのか、迫は少し元気を取り戻した。「あぁ!早く帰りたいな」額の汗を拭って、少し進んだ前の人に続いた。



家のドアを空ける頃にはジュースは少し、温くなってしまっていた。ボタボタと水滴が床にたれるのを見て、名前はティッシュで拭いて、ゴミ箱へと投げた。「何か疲れちゃったね。あんなに時間かかるとは思わなかったよ」「そうだな……。で、ケーキは?」迫にそういわれて、はっ、と思い出したようにケーキをあけた。「ジュース温いから氷いれて持ってくね」ペットボトルを持って、台所へと名前は姿を隠した。暫くして帰ってきた名前はジュースとフォークを迫に渡した。迫はまっさきに貰ったジュースに口をつけた。ゴクリゴクリと喉を鳴らして飲んでいる。「あー、生き返る。冷たい……」口を離して今度は苺タルトに手を付ける。「うまっ!これ、美味いぞ。名前も食ってみろよ」



私はえぇ……とキスもまだなのになぁ、と思いながらフォークでそれをつついた。甘酸っぱい苺の酸味が口の中に広がっていった。


Title エナメル

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