幼少の思い出



!捏造。


小学低学年のころに河童を見たことがある。その日は、川で一人水遊びをして涼んでいた。親には、「危ないから、川には一人で行かないこと」とあんなに注意されていたのに。そのことは夏の暑さでさっぱりと忘れていたのだった。近くには友達も、大人も誰も居なくて、どんより灰色の雲が太陽を隠していた。なんだか、天気が悪いなぁ。雨が降りそうだなと思って、私は川から出ようとした。そのときに、運悪く滑る石に足を滑らせて派手に転んでしまった。今、思い返せばその川は大して深くもなかったのだけれど…。当時の小さな私には、その川は深く大きかった。


必死にもがいて、手足をばたつかせて浮き上がろうとするのだけど当時の私は泳げなくて、ただ、冷たい川の中に引きずり込まれるかのように沈んでいった。息をすると、ゴボゴボと泡沫が水面へあがるのが見える。「ああ、死んでしまうのかな?」なんて、そんな演技でもないことを子供ながらに思った。目を閉じて、死を覚悟しようとしたときだった。とても、強い力で誰かに腕を引っ張られた。私はただ、それに身を任せた。

「ゲホゲホッ……」引き上げられた、私は新鮮な空気を吸う前に咳き込んだ。苦しかった。そして、ようやく私を助けてくれた人を見た。背中に甲羅を背負っていて…それは、まるで、日本にいるといわれていた河童のようだった。「…………」驚きのあまり、言葉を失う。実際に居るなんて。目を何度も凝らしても同じだった。「えっと、助けてくれて……有難う」お礼を言うと、河童君はキュウリをくれた。やっぱり、河童はキュウリが好きなんだろうか。私は、困ってしまった。助けてもらった上に、キュウリを貰うなんてどうなんだろう。「これ、やる」それを私の手に握らせる。少し大きめの新鮮なキュウリだった。何処に隠し持っていたのだろう?と思ったが、すぐにどうでもよくなった。「え……?くれるの?有難う」河童君はうん、と頷いた。肌に張り付く、水分を含んだ服や髪の毛で風邪をひくから、と私はその日は河童君に沢山お礼を言って、キュウリを齧りながら、家へと帰った。キュウリは瑞々しく、今まで食べてきたどのキュウリよりも美味しかった気がした。


家に帰ったらお母さんにこっぴどく叱られた。それもそうだ。びしゃびしゃになって娘が帰ってきたのだから。私は今日、あったことをお母さんに嘘偽りなく、包み隠さず話した。勿論、そんな非現時的なことをお母さんが信じてくれるはずもなく、自分が嘘を吐いていると、更に怒られたのだった。本当のことを言ったのに、何故怒るのか当時の私はとても、悔しかった。友達に話しても、笑われておしまいか、若しくは「名前ちゃんは想像力が豊かだね」とか「名前、溺れたときに頭をうったんじゃねぇか?」と心配される始末だった。中学になった今でも私は、河童君が居たと信じている。私を助けてくれた命の恩人の、河童君元気にしているだろうか。

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