命題 :命を溶かす方法



パラレルワールドと死んでいる夢主。


此処はパラレルワールドだと、わかっていた。ワンダバに言われなくてもわかっていたことだった。だって、名前が、生きているんだもの。動いて喋って息をして、生前の様に接して来るから俺は帰りたくなんか無くなった。帰ったら辛い現実が待っている。名前は死んだ。交通事故で死んだ。相手はべろんべろんに酔った飲酒運転……、そんな屑に名前は殺されたんだ。即死だった。俺はその日、部活帰りで遅くなってしまうからって先に帰らせたんだっけ。最後の会話も覚えている。本当に素っ気ない物だった。「気を付けて帰るんだぞ」「わかっているってー!」他愛のない、日常風景に溶け込んでいる会話だった。まさか、それが最後に成るなんて思ってもいなかった。



だから、あの日は嘘なんだって思いたかった。日が経つにつれて傷跡が生々しい物から瘡蓋に成って歪な傷跡に成る様に。忘れていくものだと思った。だけど、それとは裏腹に募る闇。なんで俺はあの日、送って行こうか?と言えなかった?「蘭丸。怖い顔しているよ、大丈夫?」「ああ、大丈夫だ」ニッコリ笑ったつもりだったのにポタリポタポタ。涙が滲んで落ちて行った。縁どる睫毛がふるり震えた。指先が悴んだようにうまく動かせない。どうして、ああ。抱きしめた温もりはあの日のまま、匂いも全てあの日のまま時計の針はずっと同じ数字を示している。「愛しているよ」「う、うん?蘭丸、変だよ?どうしたの?」幻影でもいい、これが虚構でも構わない。せめて、醒めない夢を見ていたい。



「酷い、夢を見たんだ」「うん」黙って抱きしめられたままの名前が俺の話に耳を傾ける。「名前が交通事故に遭って死ぬ夢。最後の会話なんて笑えるぞ……気を付けて帰るんだぞ、って……」また、涙が出てきた。いつから神童並みの涙腺に成ったのだろう。ああ、この温もりもう離したくない。夢でもいい、だから。その時名前の顔色が変わった。「……」何も言わずに無言で俺の背を撫でてゆっくりと離れて俺の顔に、唇にキスを施した。ちゅって触れるだけのおままごとみたいな、そんなキス。名前は不慣れでいつまで経っても、こんな幼いキスを施すんだったけ。それから俺の頭を撫でて言った。「此処で待っているから、行っておいで、ね」「嫌だ!行ったらまた、世界が変わって……!」だって、此処はパラレルの世界なのだから。名前が悲しそうに笑った。まるで俺の事を奥深くまで知っていて覗いているかのよう。



名前が淡い微笑を浮かべたまま手を振った。次の時代へ飛ぶために行く為の俺へ。もう五日も無理を言ってこの世界にとどまっていたのだ。もう無理なのだ……。名前は寂しそうに言った。「知っているよ。私、だけど、蘭丸なら前を向いていける。そう信じているから。だから。…………気を付けていってらっしゃい」あの日向けられた言葉を、今度は名前が言った。名前の言葉に唖然としていたら、神童に腕を掴まれて乗せられた。扉が閉まる。唇がなおも動いている。きっと、俺だけに向けたメッセージ。「らんまる、だいすきだったよ」


ばーか……今も好きだよ。


Title 彗星

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