運命がほどけないように



恋人はこの時代の人間ではないらしい。尖った耳に表情の読み取れない灰色に滲んだ瞳。それでも、何故か逢瀬を繰り返して、愛しあった。時代など関係ないと言わんばかりに。ただ、アルファは悲しげに言った。「名前は、私が居なくなった後他の誰かと添い遂げるのだろうか」私はこの時代の人間ではないから、法律でお前を縛ることもできないただ、関係を続けることしかできない。そして、いつか忘れ去られてしまうのだろうか。抜け落ちていく記憶の中にアルファは居るのだろうか?そんなの嫌だなって思った。



アルファがいつしか私の部屋に来なくなった。出会いも突然だったけれど別れも突然だったのだ。どうして、どうして?任務が忙しくなったのか、はたまた。その代り今度は私の部屋に女の子が訪ねてきた。アルファが居なくなって数日経ったある日だった。「アルファ様の恋人さんですか?……場所は此処で合っているはずだが……」アルファと同じような服を纏っていた彼女は無表情に辺りを見回した。アルファに忠誠を誓っていると言った女の子で名前はレイザと名乗った。年はそう私と変わらないだろう。私の事は話しで聞いていたようで知っているようだった。「アルファ様はムゲン牢獄送りに成りました。ムゲン牢獄と言うのは……貴女に説明するのも酷かもしれませんが、つまり……アルファ様は任務に失敗したということになります」



だから、今度のプロトコルオメガのリーダーは現在アルファ様ではなくベータで、アルファ様は此処に戻ってこられなくなったんですと簡略に説明してくれた。私は床に崩れて膝をついた。アルファが此処には来られなくなった?どうして?と縋るように言えば「貴女にとっても酷な話ですけど。出られないんです、そこで訓練をまた積まされるんです」つまりアルファは自分の意思此処に来ないのではなくて、……来られなくなったんだと悟った。レイザさんがいう事を全て鵜呑みにするのならば、アルファは任務に失敗してその為にそこにいるという事に成る。



「伝言を預かっています。少し恥ずかしいんですけど……聞きたいですか?」若干照れたような仕草を見せたので彼女に取っては恥ずかしいような内容なんだろう。「お願いします」「わかりました、」コホンとわざとらしい咳ばらいをした後にレイザさんが少し低めの声で何かを呟いた。するとアルファの聞きなれた低い声が何処からともなく聞こえてきた。「愛している、いつに成れば此処に戻れるかわからないが、また名前に逢いたい。この伝言をレイザに託したのは信頼できると判断したからだ。私を許してほしい、名前すまなかった…………」そこで、声が途切れた。これで終わりなのだろうかと見上げるとレイザさんが頷いた。「以上です。…………私はアルファ様に忠誠を誓っております。ですから、貴女が悲しむのもとても不本意だ。必ず取り戻して見せますから、どうぞ此処でアルファ様の帰りを待っていただけませんか?」よくわからないが、ムゲン牢獄から助け出すというのはとても難しい事のような気がしてならなくて目の前の端麗な女性を見つめて、問うた。「……出来るんですか?」



「……やってみせます」だから、貴女は希望を捨てずに此処であの人の帰りを待ってほしい。そういった、彼女に私は涙を浮かべて何度もうなずき笑った。それが彼への愛と云うのならば。


Title エナメル

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