カプリッチオ



隼総が勢いよく部室のドアを開け放ったかと思ったら、急ぎ慌てながら鍵を施錠した。そして、部室に居る喜多と星降、西野空にこう言い放ったのだ。「今から此処を開けた奴は俺の仲間じゃねぇ!俺達仲間じゃねぇからな!」これはただ事ではないと西野空と星降、喜多は顔を見合わせて肩を竦めた。だが、何から逃げているのかわからない上に、いつまでも此処に居るわけにはいかず喜多が恐る恐る隼総の怒りに触れない程度に尋ねた。「誰から逃げているんだ?監督か?監督なら悪いが俺達も連帯責任で怒られるから匿ってやれないんだが」と言うと隼総はぶんぶんと顔を横に振った。どうやら、皆が恐れている監督ではないらしい。しかし、そうなると誰だ?と成る。西野空が今度は問うた。「じゃぁ、誰ぇ〜?」「名前だ……っ!」



絞り出すように、切なげな声色で言った。そうだ、隼総はプリンスとこの学校の主に女子から絶大な支持を得ていて、その座は揺るがないものだった。勿論、星降なんかもイケメンなのでモテはするのだが、いかんせんシードと言うオプションもあって、そのリア充っぷりは半端ない物だった。だが、そんな隼総にも暗い暗雲が立ち込める。そう、名前が隼総に狙いを付けたのだ。別に名前という女は決して顔立ちが悪いだとか成績が悪いだとかあまりネガティブな人間ではないのだが、まるで蛇のような執着心を持っていて、隼総はその重たい愛情から逃げ回っているのだ。今日も、どうやら例外ではないらしい。この鍵のかかった部室は名前が諦めるまでかけておかねばならない、らしい。



「って、そんなのやだしぃ〜。僕ぅ、帰るぅ」西野空が早くも隼総を裏切るような行為に出る。隼総が全身全霊でそれを阻止した。「嫌だ!俺の貞操がどうなってもいいのか?!馬鹿の空!」西野空は馬鹿呼ばわりされて心外だと言わんばかりに顔をくしゃくしゃに顰めたが即座に「どうでもいいしぃ!」と切り返した。「お前なんか友達じゃねぇ!!」とふざけんなとばかりに西野空を止める隼総。星降は面白い物を見ていると言わんばかりに無表情気味の表情筋を少しだけ動かして笑みを浮かべていた。そして、「まぁ、他人だしね」と言って、ドアを開けた。と、瞬間に隼総に目掛けて飛び掛かる女。こと名前。「うわあああああああ!!開けやがった!信頼していたのに!俺を売りやがった!なんで止めなかったキャプテン!!一番信頼していたんだぞ!」隼総の悲痛な叫びが木霊する中、喜多が困ったように眦を下げた。「いや、開けるとは思っていなくて……なんで開けたんだ?星降」



そう言うと星降はスマホを手に、パシャパシャそのシーンを激写しながら答えた。「俺ってそういうの適当だから。それに……俺は別に。……女に食われるのもまた、一興かなって」喜多には刺激の強い言葉ばかりが鋭いパンチのように飛んでくるので避けきれなかった喜多は顔を林檎の様に赤くして、顔を覆ってしまった。「わかるぅ〜。僕もそう思うよぉ〜」「お、西野空も思う?大体、名前顔は可愛いし、スタイルもいいし、俺、逆に食いたいくらい」「……っ!」喜多はもう黙り込んでしまった。隼総が抱き着かれながらも必死でもがきながらこれは、女の腕力なのかと、泣きそうな顔で叫んだ。「お前ら恥はねぇの?!」「まぁまぁ。面白い画が撮れたし……今日はこれで。またね」「ばいばぁい〜」「……そ、その……か、鍵は閉めろよっ」それぞれの言葉は違ったがどれも隼総を救う言葉ではなかったのは間違いなかった。名前がハートマークを放出しながら「有難う〜!皆〜!またね〜!」と言った。隼総はもう心の中で諦めつつあった。が、男として情けないという気持ちが勝っていたので、まだ粘ろうと決めていた。

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