優しすぎるのは冷たすぎるから



人ごみに紛れると、孤独も紛れる気がして夜まで彷徨してしまうのは悪い癖だった。全ての人間が善良とは限らない。だけど、危ない目に遭ったことが無いので懲りずに、日課のようにしていた。商店街をぶらつく。それだけで、私の孤独感は癒えるのだった。そんな日も終わりを告げる瞬間が来た。七瀬と言う男にぶつかった時の事だった。この人の事は一方的に知っていた。悪い意味でだ。なんだっけ、確かこの辺りを束ねる悪の一味だったと記憶している。あ、終わった。と肩がぶつかった瞬間に思った。悟ったのはいいのだが、思っていた反応とは違った。「お前、ついて来い」私の腕を掴んで何処かへ早歩きで連れて行かれた。連行された。拉致られた。だが、暗がりなどは避ける様に彼は人ごみを歩いてくれた。そして、適当にコンビニに入って、肉まんと温かなココアを買ってきて一番最寄りの公園へ行った。



日が傾いてオレンジ色のコントラスが綺麗だった。そんな中さっき買ってきたものを私に彼は「ん」と乱暴に押し付けるようにそれを寄越してくれた。なんでなんだろうとか理由とかわからなかったが、寒い日々が続く今日この頃、これは温かい物だった。私はその善意に甘えて、肉まんに齧りつく。湯気がもやもやと天へ立ち上っていく。肉汁が口の中で弾けた。ココアの甘みにそれも押されたが。「どうして」初めてこの時、七瀬に声をかけたのだった。それまで怖いとか、勘弁してくれよ。って思っていたのに、優しさに触れたせいか、そんなの気に成らなかった。七瀬は私をジロリと睥睨してきたが、威圧したりするのが彼の常なので、気にしないようにと思ったが矢張り身じろぎしてしまった。



「……目ェみっとわかるんだよ。そいつが何考えているかとか。お前の目ェ、病んでいた。寂しいって言っていた。だけど、誰も周りは気付かない。違うか?」七瀬のいっていることに耳を傾けて居た。何も間違っちゃいなかった。ただ、寂しかった。それを紛らわせたかっただけなのだ。そして、七瀬はスマホを出して「ん」とまた、言った。何を言いたいか理解できずに一瞬あり得もしない妄想をしたが「スマホ出せよ。ラインとかするだろう」「え、私と……?」「此処に他に誰かが居るのか?ああ?」怖いけれどいい人なんだろう。私の寂しさを埋めようとしてくれる。私は、スマホを出して彼と交換した。「んじゃ。また、寂しく成ったら連絡をくれ」それだけ言って帰り道も付き添ってくれた。「……なんか、有難う。私の事に気が付いてくれて、」「……ん」言葉数は少ないし、出てきても乱暴気味なのにこんなに、温かな心に触れたのは久しぶりだった。


Title エナメル

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