ちっぽけな事



ずぶずぶ、砂は流れ何処までも広大なる流砂に飲み込まれていく。握りしめた手が汗ばんでいて彼の固い皮膚を濡らした。大丈夫だ、と言わんばかりに握りしめる力が強くなった。こんな死に方を選ぶなんてどうかしていると、みる人は言うだろう。だが、私たちは許されないのだ。死が二人を現世で引き裂いても、魂は天に昇りそこで極楽浄土か、夢にまで見た桃源郷か、そこで二人は永劫に幸せに生きていくのだ。此処での死は過程であり、終わりではない。そう夢見がちに話して居た、カゼルマと共に勢いにのまれてゆく。死は怖くないか?否、怖い。私は神様を信じていないし、さっき言っていた、極楽浄土も桃源郷の存在も最近口にして自分を納得させようとしていただけで、実際は日本人らしく無神論者であった。



私とカゼルマは異種族でありながら、愛し合った。その証に、何度も肌を重ね、お互いの星の言葉で、愛を囁き合い、じゃれ合った。だが、この星……サンドリアスの人々は私たちを異分子として排除したがるように成った。よそ者を元々受け入れる様な星ではないのと同時に誇り高きサンドリアス人の血によそ者の血を混ぜたくなかったのだ。そう言った意味で私たちは、追い込まれていった。最初は良かった、一時の感情だ、とかそういう言葉で片付けられたのだから。だけど、私たちは逢い肌を重ねるたびに愛は深まっていった。時に優しく時に荒々しく雄叫びを上げる様に。それは星の悲鳴にも似ていた(そんな法律何処にもないのに私たちを縛り付けるのだ)。



自殺を決意したのはほんの二日前、自殺を提案してきたのは私ではない。だから、桃源郷だの極楽浄土だの地球に有った言葉を持ち出して、誇り高きサンドリアスの血を引くカゼルマが自殺をするのを少しでも楽にするように促しただけに過ぎやしないのだ。あの誇り高いサンドリアスの戦士、カゼルマが自殺を言い出したのはきっと、とても追い込まれているからだ。愛し合っているのに、この星では生きていけないからだ。かといって、地球に、なんていうわけにもいかず。だから、自殺するのだ。大丈夫、息をほんの少し止めるだけ。なんて、そんなんだったらよかったのにな、



下半身が砂に飲み込まれた、熱くて砂が痛くて額に汗を拭きださせていたがカゼルマは慣れているのか涼しい顔でこの先の話をしていた。ああ、死ぬ直前のお話ってこんなにも簡素な物でいいのかなんて、ちょっぴり期待外れだった。「あそこの店の料理、美味しかったな」「今でも忘れられないよ、あの見た目」「あれはサンドリアスでは普通なんだ。まぁ、あまり食べるものでもないけど」そういって、まだ飲込まれていない片手で頭を掻いた。「それより、カゼルマ。口が聞ける間に言っておきたいの」“大好きだよ”その言葉に目を剥いて、それから切なげに涙の膜を張った瞳で「ああ、……愛しているよ」とだけ答えた。それからその固い唇に潤いを与える様に貪るようにキスをした。砂に全てが飲込まれてしまえば、きっと、私たちのちっぽけな体も想いも、何もかも、無く成るんだろうな。そうだろうな。

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