その苦しみを愛と呼ぼう



情緒不安定

先程から夜桜は、私に好きだと何度も小鳥が囀る様に言ってくる。別に夜桜と私は恋人同士ではない。強いて言うなら同じクラスのお友達である。夜桜はあはあは、毎日笑っていて愉快そうに見えるけれどそれは、傍目であって実際の所は楽しい事も無いのに笑っているから心の機微には触れられない。「夜桜、もうわかったから」わかったというと目を円らかにして、本当に本当に本当に?と目を据わらせて、言ってくる。実際は全然わかっていないのだが、これ以上心臓に負担をかけたくなかったので、この話題を終わらせたかったのだ。だが、夜桜はそれに気付かないかのようにじゃぁ、とかわりを押し付けてきた。「どのくらい好きか表現してみてよ!あはっ!出来るよね?わかっているなら!」と。無理難題である。好きとか目に見えないものをどうやって、表現しろと言うのだ。というか、何なら夜桜は納得してくれるのだろうか。



私は自惚れたくなかったので、手を少しだけ広げて「これくらい?」と尋ねてみた。夜桜はあはははっ!と笑って縁取っている睫毛を震わせた。「名前にはそれくらいしか伝わっていないんだー!あはははははははっ!酷い酷い酷い!」酷いと連呼しながら私の背中をぽかぽか叩いて来た。全力ではないから痛くはないけれど。夜桜が泣きそうな顔で、笑っているので、今度は腕を思いっきり広げて「じゃぁ、これくらい」って言うと夜桜はもっと泣きそうな顔で「違うもん!あはっ!全然足りないもん!」って涙をぽろぽろ零した。それから、私に詰め寄って詰問するように言ってきた。「まだ。わからないの?」って。



「好き、好き、好き、好き、好き、大好き。何度言っても足りないよ!あはははははははっ!」「わかった、わかったから……もういいから!」怖くなって夜桜の事を制そうとしたら夜桜がぶんぶんと必死に首を横に振ってよくない!と叫んだ。「名前が磯崎と話して居るとムカつく!勿論、部活のことだってわかっているのに!それから、毒島と隣の席なのもムカつく!何も悪くないのにすげー、嫌な気持ちに成る。それから、名前がすっごくムカつく!多分一番ムカつく!!」何で私にムカついているんだろう?他のは若しかして、嫉妬?でわかるんだけれど、私は何で?っていう気持ちに成る。だって、さっきまで私の事好きだって何度も何度も子供が喚く様に言っていたじゃないか。



「だって、俺がこんなに好きだって言っているのに、全く通じていないんだもん!どうしたら、名前はわかってくれるの?通じるの?」そんなの私にもわからないよ、夜桜。だって、人の心は覗き見る事なんて出来ないし、秤にかける事も出来ない。目に見えない想いはどれほどの重量なのか、なんて。ただ、嗚咽しながら、好きだよ、好きだよ。と壊れた様に呟き続ける夜桜の背をあやしながら漫ろ歌を歌うのだ。

Title 箱庭

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