生きる才能、笑う才能



「夜桜君は、笑っていないよね本当の意味で。楽しい?いつも、無理しているように見えるよ」唐突に告げた、名前は至極楽しげで満面の笑顔だった。早い話、加虐者の顔だった。ムッとするのを抑えて夜桜が気の触れたように笑う。見慣れた笑顔は怖いくらいに冷たい。「あはっ!お前も才能ないくせに、俺のことどうこう言えるのか?ふふふ」名前が驚いたように、夜桜を睨みつけた。不愉快だ、と暗に訴えかけていた。それでも、夜桜は動じない。寧ろ、先程より機嫌のいい様子だった。「私は笑えているよ、夜桜君と違って嬉しいときに笑っているからさ。無意味に笑っていないの」最も、感情表現そのものが無意味だというのならば、これも無意味になるけれど。瞳を伏せた。



「笑うことじゃない。俺が気づかないわけないだろォ!俺には確かに才能なんか無い。でも、お前はもっと悪い!」何が、と悔しげに夜桜を見つめる。その先の言葉に口を噤み待っていた。僅かな静寂を夜桜が、いとも簡単に壊した。「名前は生きる才能が無い」あははははは!と言う夜桜の独特の笑い声が反響した。耳に轟轟と鳴り響き、耳鳴りのように耳を痛める。無意識に耳をふさいだ。それでも、言葉の意味を理解した名前が呆然とした様子で辛うじて聞き取れるようなレベルの声量で告げた。



「そうかもね」肯定だった。生きるのに、うまいも下手もないはずなのに。頷いていた。
「本当、下手くそだ、俺たち」夜桜が笑うのをやめて、うなだれた。それも一瞬だったが。すぐにケタケタ、壊れたように笑い出す。空元気だとお互い、気が付いていたがそれには触れない。「あはっ!でも、丁度いいだろ!欠けたもの同士、才能ないもの同士!」俺たちは、お互いを補える。それでいて、親よりも友達よりも深く互いを求め、理解している。紡ぐ言葉に名前も笑った。



「あははっ。いいね、俺は名前の笑顔好きだよ。ちゃんと笑えているよ」えくぼを指でつついた。下手くそだけど、才能がないけれど、生きている。笑っている。


病的な生きる才能

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