天使とセシウムの雨



あの子の両の目にそっと目隠しをして。あのね、世界はねとっても汚れていてね。貴女には見せられないくらいに澱みきっているの。あの子は汚れの無い、純白な羽をもった天使のような存在で、きっと神様が産み落としたの。この汚れた世界に、ポツリ。崇高なる貴女に、私はずっとずっと頭を垂れて、崇拝している。あの子の柔肌が、あの子の濁りの無い瞳が、細く白いしなやかな腕が、痩躯が、細やかで艶やかな黒髪が。どれも私を魅了してやまない。綺麗とか美しいとかどんな言葉をもってしてもあの子を、完璧に表現など出来やしない。陳腐すぎるのだ、使い古された言葉すぎてリアリティを失う。きっと、私はあの子を思う事(愛)すら許されないのだ。私という存在はこの俗世と、排気ガスと二酸化炭素とセシウムに蝕まれていて、天秤が傾いてしまう。



最初のうちは汚れを排除するのに、手一杯で一日を追われていた。寝ない日もあった。だけど、気が付いたのだ。私は一人だ。排除し続けるのには限界があるということに、体は廃墟に打ち捨てられたかのように、ギシリと骨が軋み体の節々は悲鳴を上げ、限界だと訴えかけていた。私はセカンドステージチルドレン、だから、多少の無理は出来た。だけど、所詮は生き物だった。それを痛感していた。だから、これは仕方のない事だったの。許して、許して。あの子を地下牢に閉じ込めた。知っているのは私だけ。あの地下牢は、あらゆる攻撃、超能力を使っても壊れないように設計されていた。元々武器を開発しているチームメンバー……つまり、メイアたちが設計した地下牢だった。詳しい事はわからないけど、私から言えることと言えば、特殊な牢であるということである。



あの子は翼をもがれた、天使のように(もう、天には帰れないの?って)さめざめと涙を流しながら、どうして?とかなんで?とか疑問をぶつけてきた。その度に私は何度も繰り返し教えてきた。「この世界は穢れているから、貴女をこれ以上、地上の汚れに汚染させないため」仕方のない事なの、これしか無かったの。だって、世界は貴女を容赦なく汚染させるわ。セシウムの雨のように、自然に体に染みわたっていくの。あの子は太陽すら浴びなくなってもっと白く成っていった。もう泣くことも理不尽なそれに言葉を紡ぐことすらやめてしまった。その瞳に孕むのは諦観だった。迫りくる、死の足音に私は笑った。これで、彼女が本来居るべき場所に帰れるのだ、と。死は肉体からの解放と同時にこの汚い現世からの解放であった。「ニケ、」「ああ、良かった!きっと神様が名前様をセカンドステージチルドレンとして産み落としたのは、この腐敗した世界から直ぐに救うためよ!」「ニケ、聞いて。私はセカンドステージチルドレンだけどその前に人間だよ」



人間?何の事か、わからない。貴女はそんな低俗な生き物じゃない。さぁ、もうすぐよ、もうすぐフィナーレなの。貴女は天に帰って、私も一緒に天へ渡らせてもらうの。そこで、歌いましょう、永遠の愛を。

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