正しい夢の壊し方



神童と言う男はこちらがほとほと困り果てる程に、泣き虫だった。その上に紙メンタルで扱いが難しいので、できれば関わり合いに成りたくないというのに向こうから関わってくる。そして、勝手に泣くものなので私の想い人の蘭丸にはよくどやされる。そのたびに憂鬱になり気が滅入る。私が好きなのは蘭丸なのに、困っているのは私の方だ。神童の好きという言葉は重たいしすぐに泣くから。皆自分勝手だと思う。私は蘭丸が好きで、神童の気持ちを蔑ろにしているし。神童は私の気持ちを無視して、私に重たい愛情をぶつけてくる。そして、最後に蘭丸は私の気持ちを知っていて、神童と私をくっ付けようとする。なんて酷な物語なのだろう。誰も救われやしない。



「また、神童を泣かせたんだな、神童を泣かせないでやってくれ」呆れを含んだ声色だった。やけにそれが耳鳴りのように響くので私は顔をしかめた。「蘭丸は酷いよ、私の気持ちを知っていて神童の気持ちを私に押し付けようとする」「押し付ける?人聞きの悪い。俺は神童と名前が幸せになってほしんだ」「そんなの勝手だよ」私は蘭丸が好き、好きで好きでたまらなくて気が狂いそうなのに神童を押し付けられても困る。大体、私の幸せ何て蘭丸になんか決められるはずもないものなのに蘭丸はそれでも歪に口の形を変えて言う。「俺は友達の神童の恋と名前を天秤にかけているのかもしれないな、俺は名前の事」



好きじゃないよ。だから、神童の事を応援して二人がくっつけばなって思っている。これほど残酷な事ってあるのだろうか。物語でも中々此処まで残酷な事って起きないはずなのに事実は常にそこに存在し続けて、自己主張している。力強い程に。「泣かないでくれよ」「私、蘭丸が好き。神童じゃないよ、蘭丸が」「名前、」その時に、教室の扉がガタンと音を立てて、私は座っていた机から落ちそうになった。ああ、なんてタイミングの悪い。「神童、」「……っ、」ズズッと鼻をすする音が聞こえた。また、泣いているのだ彼は。



「霧野、お前は……っ、知っていたのか。名前の気持ちも」「知っていたよ。全部ね」ねえ、このお話だれが悪いの?私なのかな?神童を好きになれない私が悪いのかなぁ。「どうして、霧野なんだ」「どうして、私を見てくれないの」二人の声が反響する。誰も幸せになんか成れないんだよ蘭丸。この選択は、このお話は。「ねえ、名前。神童と付き合えば?」「らん、」俺のお願い。神童には泣いてほしくない、それに俺はお前を見る事多分これからも無いからさ。って端的に言ってのけた。神童の声が一層強く聞こえた気がした。私の心臓はそう、腐肉のよう。ただただ腐敗して死んでいくのだ。蘭丸への恋心ごと撃ち殺して、もう息をしていない。それでも、まだだと言わんばかりに凶器を突き刺して止めを刺してくる。「二人ってお似合いだと俺は思うよ」この世界に神様はいなかった。


Title リコリスの花束を

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