生きるしるべ



自殺する心
非道徳的。


俺は死にはしないだろう。俺はとてもずるがしこい人間で、正常な人間として扱われるのは些か他の常人に失礼だと思う。俺はとても酷いことをしながら生きている。もっとも、意地でも生にしがみつきたい人ならば誰でもしているだろう。俺と死んでしまった喜多の境遇は少しだけ似ている。ただ、違う点を挙げるとするのならば喜多の両親の遺体はきちんと出てきているけれど、俺の両親の遺体は出てきていない事。つまりは、蒸発してしまったのだ。俺を残して。だから、俺は生きるために仕方なくこんな賊みたいなことをして生きているのだ。俺は生きたい、のだと思う。



時たま死にたいと思うことはあった。流行りに乗っかって死のうと思ったこともあった。首を吊った、手首を切った、薬を大量に飲んでもみた。結果はご覧の有様、俺は生きている。こう、何度も挑戦しても駄目だと逆にもういいや、と開き直り生きてみようと。カーソルが動く、「練炭自殺ね」いいね、こういうのがあるから俺は潤うんだとそれをクリックして俺は閲覧に徹する。そこには数人の男女と思しき人物が既に何か書き込みしていた。俺はそこに飛び込む形に成るだろう。日時をメモに記入する。



俺はやっぱり死なない。というよりも死んだ奴らの金品を奪うつもりで時間をずらしてきたのだから当たり前か。金に成りそうなアクセサリーや時計を手に入れて俺は口元を綻ばせた。眠りこけているように見える女も中年の男も今頃は天国、はたまた地獄からお迎えが来ている事だろう。俺より少々、年上に見える女のネックレスに手をつけた瞬間に女が身じろぎ俺をぼーっとした目で見つめた。虚ろな様子だ。……ちょっと早かったかな。「何?」「何で生きているの?」「わからない、君は死んでいないね、なんで此処にいるの?」「俺は、金目の物を取るためだけに来たから。別に死にたいわけじゃないし、お前らと違うから生きるために来た」ふぅーんとふわふわした様子で興味無さそうに手を放した。



「皆死んじゃった?」「多分ね、俺は最後にお前に手を付けたからさ、お前だけ生きていて驚いたくらい」女はそれから興味無さそうに息を吐いた。それから、何でも持って行っていいよっていうから俺は軽い女の体を抱き寄せた。「俺と一緒に来て、お前も金品を漁って生きればいい、死んだのに生きていたってことは、そういうことだ。俺と同じだ、だから」だから、一緒に生きて、それは俺の本心からの願いだったのかもしれない。女は虚ろに笑って名前を名乗った。俺と共に行くと宣言してくれた。ああ、俺はもう、一人ぼっちじゃない。

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