悲しみノスタルジック



遠い未来の話に、夢や理想を持って尋ねる女性の目ではなかった。ただ、達観し全てを諦めているようなそんな目であった。お勝さんの友人であると言った名前さんは詳しくは敢えて聞かなかったが、位の高いお父さんを持っているらしく、女性だというのに立派な刀を腰に二つほど刺してじっと、俺を見つめていた。「未来の恋愛とはどのように成っているのだ?今よりも自由であるか?」他にもっと聞きたいことはあるのでは?と思ったけれど如何せん真剣な様子とその気迫に押されて俺は、恐る恐る口をもごもごと動かした。「……今よりずっと自由ですよ。一部を除いては、地位や立場を気にせずに恋愛が出来ます。それから、海の向こうの人間とも」「そうか。……、それは、……夢のような話であるな」そう言って俺の言葉を信じているのか信じていないのかわからないが、町を見下ろした。憂いを帯びた表情であった。きっと、そのような夢の話があってもいいと思っているのだろう。いや、思いたかったのかもしれない。



「……、お前は私がお勝を好いていると言ったら軽蔑するか?」ああ、矢張りだと思った。何かは異様であった。雰囲気でわかる程度の物であったけれど言葉に成ってしまえばすぐであった。「……いいえ。未来の世界には貴女みたいな人が居ます」「そうか」はあ、と一度大きく溜息をついて俺を見つめた。「神童。お前は私の恋敵である」キリリとした凛々しい瞳が俺を射抜いた。恋敵、というと俺は否定せざるを得ない。「……俺は、その」俺がそういうと名前さんが何かを察したように眉根を寄せた。「……違うのか?だが、私は特に競おうというわけではないし、関係がない話に成る。じきに私は嫁がねばならぬからな」どういうことだ、名前さんはまだ十代で俺たちとあまり変わらないように見える。それなのに、嫁ぐ……?と俯いている名前さんの顔を下から覗き込んだ。「仕方のない事なのだ。私に自由などない。好いた奴と結ばれることも許されぬどころか、相手すらも選ぶ権利などない。我々は道具のようなものだ。お前に言ったところで仕方あるまいが」



あの言葉が細かく粉砕された硝子の様に突き刺さったまま離れなかった。あれから、ワンダバに頼んでもう一度会いに行ったとき、風景が変わっていた。あそこは確か草がぼうぼうと生えていて家なんか立っていなかったはず、それに子供たちも昔と……そこで理解したのだ。俺は、……あの時代よりも先に来てしまったのだ。名前さんの家へ行けば名前はもう此処には居ない、此処ではなくあちらだよ。と名前さんのお母さんが教えてくれた。少し寂しげに見えたが気のせいではないだろう。そして、案内に従って道なりに行けば、名前さんが居て、まだ幼い子供と戯れていた。そして、ジャリ……砂を踏みしめ気配に気が付いた名前さんが凛とした顔を上げた。あの頃と変わらない、と言いたかったが「ああ、神童。何年振りだ」年月を感じた。



「今は旦那が仕事に出ていてな。この子たちは私の子供だ、それから、新しい命も」まだあまり膨らんでいない腹を擦った。「あの、お勝さんは」「……お勝も別の人の元へ嫁いだよ」これが定めなのだ。と嘲るように笑った。「お勝は……言っていたよ。未来で、私の子孫がどうか、神童と逢えるように、と」俺は何だか無性に泣きたくなった。名前さんもお勝さんも結局好いてもいない男に嫁いで身を委ね子を宿しただなんて。「あ、あ、時代が違えばな、お勝……」そうポツリ呟いた名前さんが頬に一筋の涙を流した。

title Mr.RUSSO

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