季節泥棒



私には心の中で季節泥棒と呼んでいる男の子がいる。何せその男の子は名を名乗らずに私のお見舞いに通ってくれているから、何て呼べばいいのかすらわからないのだ。わかることといえば、彼がたまにサッカーのユニフォームを纏って居る所から白恋中学(つまり私と同じ学校)サッカー部だというところだけだ、あとは髪の毛がもふもふ白い子だってこと。それ以外はわからない。最初は彼がプリント等を届ける係りに任命されてしまったのかと同情してしまったのだけれど、そうではなく、彼はいつもひとつその季節にしかないようなものを添えてやってくる。例えばだ、春には桜に桃の花びら、季節限定のお菓子、それらを持ってきてくれる。私と言えば、外に見える風景を眺めるだけなので、それら全ては新鮮なものであった。



夏、お祭りがあるのを遠くから祭囃子を聞いて憂鬱に浸っていた所、彼がやってきた。「お土産だ」と、言ってリンゴ飴やらお祭り限定でしか買えないものの多くを持ってきてくれたので暗雲の如く立ち込めていた、憂鬱を振り払ってくれた。それ以外にも心霊特集とかいう雑誌をくれたり、スイカを差し入れてくれたり。ほぼ毎日のように季節泥棒はやってきてくれた。それにしても不思議なのは夏休みなのによく、此処に来てくれるなぁってこと。私にとっては僥倖であるけれど、よく飽きないなって所だった。うだるような暑さには参ってしまう。一度あまりにも暑苦しく見える彼の髪の毛を縛ってあげた所、なんだか可愛くて笑ってしまった。彼はポカンとしたまま、私から視線を外さずにそのまま苦笑した。



秋がやってくる。紅葉がちらほらと、赤や黄色に、それらが地面を彩り赤とんぼが華麗に空を舞う季節だ。彼は当然の様に紅葉を持ってきて私にくれる。「もうじき冬だな」とポツリ呟いた。私はベッドに一緒に腰かけている彼の顔を覗き込む、ギッと音を立てたベッドに私は溜息をついた。きっと、冬も私は此処に居なければいけない。あと少しの辛抱だと思ってはいるけれど、だけども「早く自由に駆け回りたいよ」「……そうだな」同調するように言って私の頭を撫でてくれた。その手が優しくて、なんだか胸が切ない痛みを伴ったことに気が付いた。



雪がチラホラ降っている。チラホラならば可愛い物だ、ドカドカと闊歩するかの如く、大粒の水を含んだ雪よりもマシだけれど。私は冬があまり好きではない。きっと北海道に住んでいるからなのだろう。他県民からすれば物珍しさで綺麗だとか言うけれど我々にとっては死活問題である。そういえば、昨日、彼から明日は窓から外を見てくれと言われていたのを思い出して窓に少しだけ身を乗り出した。外には少し大きめのサイズの雪だるまがあって、季節泥棒さんが手を小さく振った。私は嬉しくなって、病室の人たちの事なんて忘れて、大きく手を振った。この光景を私は忘れないだろう。



また、一つ季節が一周して春がやってきた。私の隣にはもう季節泥棒さんはいません。

でも、いいのです。その代り木瀧常緒ってちゃんとした名前のある、男の子が隣に居ます。私の歩幅に合わせて嫣然と笑むのです。私もつられて、一緒に微笑むのです。


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