ショタコン疑惑なんてありません!



「やばいやばいやばいやばいやばい」ぶつぶつと危ない人のように数え切れないほどやばいという単語をしきりに繰り返し続ける、名前は頭を抱えながら全速力で走りながら誰かから逃げるように裏路地に入って、死角になる場所へと逃げ込んだ。それからは息を殺して通り過ぎるのを必死に両手を組んで普段祈りもしないし信仰心も無いというのに、神に祈っていた。「名前さあーーーーん!!!何処ですかああああっ!!」「ひぅ……!」大きな声にびくりと弾かれたように体を跳ねさせて、空気を漏らした。人はまばらだが、こんな大声を出すなんて、信じられない。とだらだら嫌な気持ちの悪い汗を流しながら、まだ希望を捨てきれずに立ちすくむ。このまま立ち去ってくれ、と。必死に傍をうろついている人物に念を送り続ける。勿論エスパーなんかではないので、無駄な行為ではあるということは自覚しているが。



しかし、希望も空しく、ひょっこりと顔を出したゆるやかなウェーブの少年に名前は飛び上がるほど驚いた。「……見つけましたよ」口を三日月のように歪めながら名前を捕らえた。さながら大ヒットを記録したホラー映画のようである。「ぎゃああ!!何で見つかったし?!」息を殺して、気配を殺していたはずなのにっ!と名前は声を荒げた。「愛の力です」さらりと億劫もなくいう神童の暗い瞳に射抜かれて、名前はその場にピシリと凍りついた。神童になつかれたのは本当、数ヶ月程度前の話だ。名前は今年の春に雷門に来たただの数学の教師で、とりわけ神童に何かをしたわけではないし、特別扱いはもってのほかだと普通に接していたのだが、どういうわけかものすごくなつかれてしまったのだ。



「はははは、面白い冗談だね!ところで……な、何か用かな?」乾いた笑いが喉から出てきた。裏路地は暗くてじめじめとしていて表の通りよりも気温も低い、名前の体温が急速に奪われてゆく。今の状況のせいが主な原因であることを薄々理解はしていたが。「いや、ですから。俺は名前さんが好きなんですよ。いけないことだとはわかっているんです、それでもっ……!」キッと鋭い瞳を薄汚れた地面に、向けて涙を零れんばかりに溜める。彼のメンタルは障子とかそういうレベルだ。「何度も言っているけど、ごめんね。私は教職をやりたいんだよ神童君。君に手を出したら私は干されるんだよ!」小さな子を諭すように、神童の両肩を掴んで言い聞かせる。神童は一瞬泣きそうになったがグッと堪えて、唇を開いた。



「……俺と付き合うには名前さんが干されず、尚且つ食べていけてと、そういうことですか?」名前にとっては悪いことをひらめいたような、そんな顔を一瞬して名前はまずいことになってしまったと気がついた。付き合う、の部分も否定したかったが少しばかり名前のほうが遅かった。「……大丈夫です。俺が全て隠蔽してあげます。だかr「だあああっ!ダメっ!いつか露呈しちゃうんだからっ!隠蔽とかいわないで!怖い!」悪いことはどんなに隠蔽していてもいつかは、ばれてしまうだろう。世の中は自分の都合のいいように回らない。それに名前には一番、認めたくないことがあった。



「それに、私はショタコンなんかじゃない……!」「……へ?しょ、たこん?」まさか神童もそんな単語が名前の口から出てくるとは思っていなかったのだろう。その単語を理解し頭の中で処理するために一度、口にしてみる。それでもまだ、理解できなかったのか、首をかしげて名前を心配そうに少しだけ見上げた。「ああ、どうしよう。私ショタコンなんかなりたくない。認めたくない。絶対やだ、悪い意味でのニュースになりたくない、お母さん……東京は怖いところです。もう、帰りたい」「あ、あの、名前さ、ん?」「認めたくない……」ぽつり、と呟いてから「絶対、認めないんだからああっ!!」と絶叫して神童の傍から猛ダッシュで逃げていってしまった。残された神童は少しだけ複雑そうに、眉を下げた。しかし、何処か嬉しそうに口元を緩めて。


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