架空の空



うちらは別れることに成るのだろう。それは、未来からやってきた自分の伴侶から告げられた真実である。名前は何と言ったけ、まだ数日前の出来事だからすべての事を把握しきれていない。だけど事実なのは何となくわかった。彼の切羽詰まった声や、愛しげなまなざしがひしひしとうちの体を刺したのだ。きっと、物理の攻撃だったら血が出て、足まで伝っていただろう。そして、地面に大きな赤い水たまりを作るのだ。だが、そうでないのはそれが攻撃ではないからだ。ああ、名前ちゃんとの未来は永遠ではないやんね。それってとっても辛いことだ(うちは永遠だって思いたかったのに、)。



うちは一身に、名前ちゃんの愛情を受け止めている。なのに、うちはきっと裏切ってしまうのだ。いつどこで出会うかわからない彼にきっと、心を射止められて、名前ちゃんを裏切ってしまうのだ。それが裏切り行為ではない自然の摂理で女が男を好いてしまうのは仕方のないことだと言い訳をして、エメラルドグリーンの彼に愛を寄せるのだ。そして、子を授かるのだ(此処まで彼から聞いた話だったりする。うちは一児の子をもうけて死ぬのだ)。それを聞かされてから、うちは虚しくなって仕方なくて、堪らなく死んでしまいたいような感傷に浸るのだ。愛は永遠ではないのだ。



どうやら、握りしめていた手に力がこもっていたらしい、汗ばんだ手のひらが名前ちゃんの手を汚してしまっているようでうちは、また心臓がぎゅうと何かにつままれたように痛んだ。これが恋をしているときの痛みと似ていて、うちは名前ちゃんが好きだと錯覚しているのかもしれない。うちは年が離れているせいもあってか、アスレイさんには特にときめきを覚えたりはしなかった。「うちら、いつか、別れちゃうやんね……?名前ちゃんの事好きじゃ、無くなっちゃうやんね?」名前ちゃんは知っている。だって、逢瀬の現場を見たから。「きっと、そうだろうね」



名前ちゃんは肯定して、決して否定はしなかった。それにじんわりと目頭が熱くなって、手の空いている左手で目を少しだけ抑え、作られた偽りの空を見上げた。いつからか、空は偽物にすり替えられていて、いつだって青空だ。少なくとも、うちが生まれたころには既にスクリーンの空だった。うちは空すらろくに知らない子供だった。「黄名子ちゃんは、悲しい?」名前ちゃんの唐突の質問にこぼれないようにと上げていた顔を、縦に振った。そして、涙がポツリポツリと零れていった。「悔しいやんねぇ。うちらの愛を否定されてしまった気がして、悔しいやんねぇ、」うちらの愛は紛い物なんだろうか?教えてほしいやんね。でも、未来を捻じ曲げたらフェイは生まれてこない。「仕方ないよ、それに怒っていないし、黄名子は今私を好きだって信じているから」「でも、悔しいやんねぇ、名前。…………ねぇ、今すぐに、好きだって言って欲しいやんね」



沢山沢山、言ってほしい、うちの為だけに紡いでほしい。偽りのスクリーンが映し出す満点の星屑の銀河の海たちの様に、永遠に。「黄名子が好きだよ」それから、もう一度、本当に好きだよと小鳥のさえずりの様に。「私たちの愛はまがい物なんかじゃないよ、黄名子。今、この瞬間、私たちは愛し合って傍に居る。未来が例え、どうであっても、この事実だけはきっと変わらない。それから、黄名子も忘れないでほしい」例え、未来でアスレイさんを好きに成っても、きっとだよ、私は忘れないからって言った。



……うちもきっと、忘れないやんね。きっと、ずっと覚えていて、美化された思い出とこの偽りの景色とそれから可愛いままの名前ちゃんを覚えている。きっとずっと、死ぬまで覚えている。「ああ、それにしても……本当の空が見たいやんね、」涙の跡は乾かないままだ。愛しい色を覚えたままで、いたい。この気持ちだけは本当だって今は信じてほしいよ、神様。

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