痛々しい愛を頂戴



夜桜はとても、愛情に飢えている。誰でもいいのか、と聞けばそうではないらしくて……私以外にはこんなことしたこともない、っていつものように笑いながら言うのだ(どうやらある一定の物に執着するらしい、人にも物にもだ)。だけど、これではたちの悪いストーカーとか病んだ人みたいな感じで恐怖感を覚えてしまう。包丁や刃物の類を持ち出されたことは今のところないが。たまにとても情緒不安定だ。「……ん?」携帯が震えていることに、ようやく気が付いた。鞄に入ったまま、宿題をしながらお気に入りの音楽を聴いていたためにまったく気が付きもしなかった。私は慌てて、携帯を鞄から取り出して、相手を確認する。



友達のメールとかならば、まだよかった。メールと、着信はぎっしり夜桜で埋まっているものだから慌てて、メールを見た。大よそ、不安定になったのだろう。という予想の元何十通か、来ていたメールの内数通だけ目を通す。「俺のこと嫌いになったの?」、「どうして、出てくれないの?返してくれないの?」はぁ、と溜息を一つついてみるのをやめた。見ている間にも着信が来たからだ。ちょうどいい、と通話ボタンをプッシュした。「夜桜……?」「名前。なんで、出てくれなかったの?俺、俺……っ。あはははははっ!」急に爆ぜたように笑い出す夜桜にゾクリと寒気がした。向こう側の声は籠っていて、泣いていたようにも聞こえていたから余計に浮いていて、異質だった。「……ごめんね?今日出された宿題、消化していたの。マナーにしていたから気づかなくて」本当のことを打ち明けると、夜桜の声が電話越しに聞こえてくる。外にでもいるのだろうか、風の音がビュービューと雑音になって聞こえてくる。たまに車の走る音も聞こえる。少しだけ聞き取りづらいが、ハキハキとしゃべってくれるのでなんとか理解できる。



「本当に、本当に?嘘じゃない?俺、嘘は嫌だよ。名前信じるよ。あのね、俺も宿題終わらないの、一緒にやろ?そっち行っていい?」「え?……いいけど、私の答えをあてにはしないでね。難しくて全然わからないの」プリントに目を移す、全然まだ空欄は埋まっていない。ところどころ埋まっているところはあるものの合っているかすらも怪しい数式たちが綴られているだけだ。夜桜で理解できないなら私も理解できる気はしない。「うん!わかっている!大丈夫。俺も終わっていない」「じゃ、待っているね。切るよ」と、電話を切るのと同時にインターフォンのなる音。まさか、夜桜だろうか。ありえるな……夜桜外にいたっぽいし。たまに行動が突飛だし。嫌な予感を少なからず交えながら、玄関のドアを開けてやるとやっぱり厚着をした夜桜が立っていた。ちょっぴり目が赤いのは気のせいってことにしておこう。「あはははー。来ちゃった!」学校用の鞄をかけた、夜桜が「お邪魔しまーす、アッハッハッハッハ!」って笑いながら靴を脱いで上がりこんだ。私は靴を揃えて先に私の部屋へ行ってしまった、夜桜の後を追う。



部屋の扉をあけっぱなしにしたまま、我が物顔で床に座り込んでいる夜桜の隣に腰を下ろした。自由奔放、自分の思うままに動いている節がある彼はにっこり子供のような邪気のない笑顔を浮かべた。大概、見るときには笑っているけどたまに私に向けてくれる笑みはとても穏やかだ。というか、私と居るときは落ち着いているから出来るだけ夜桜から離れないでほしいと、夜桜と同じシードである磯崎君直々に頼まれてしまった。夜桜が安定するのならば、私の事はどうでもいいみたいだ。夜桜の安定剤でありつづければ彼の心も凪ぐのだろう。それってないよ、人身御供だ、生贄だ。別に嫌とは嫌ではないからこうして関係を続けているけどもたまに思う。「あっは。俺、嘘ついた。本当は宿題終わっているよ。映していいよ。答え全部間違っているかもしれないけど。名前が居ないと駄目なんだよ」


title Mr.RUSSO

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