軋んだ脆い僕のココロ



別れようって言われた時、私はショックとか寂しいとか何で?とか言う疑問などよりも先に、怒りと憎しみに染まった、それからしばらく経って良かったと安堵したのを覚えている。こういう事を言うのは可笑しいのかもしれないけれど(事実、私は少し可笑しいのかもしれない)、これ以上、彼にのめり込まなくて済む、これ以上彼の事を考えなくて済むと思ったからだった。私は想像以上に隼総(わかれたので、名前で呼ぼうと思う)にのめり込み依存していたので、ああ、これでようやくあの恐ろしいほどまでの執着から逃れられるのだと思ったのだ。



隼総の事は大好きだった。自信家で少し傲慢だけど頑張り屋で、シードに成るって言った時も応援したし、試合だって(負け試合含む)見に行った。私たちは毎日恋人らしいことをしては依存し合っていた。だから、隼総の方が先にこのままじゃいけないと思ったのかもしれない。「別れよう、このまま、俺はお前に依存して駄目に成っていくのは嫌だ。でもわかってほしい、俺は名前が嫌いに成ったわけじゃあない。寧ろ、好きなんだ」だから、このままじゃいけないんだ。お互いの為なんだって言い聞かせるように言った。



始めの私はとても荒れた。隼総に裏切られたって気持ちと、私の事なんか本当はもうどうでもいいんだ、プリンスだから女の子も選り取り見取りだし、私なんかよりも可愛い子を見つけたんだ!って。ベッドに伏せていたが内部で爆発を起こして、備え付けられていたクッションを壁に向けて投げつけた。私はまだ隼総が好きだった。好きだった、好きだった。だからこそ、許せなくて、好きの気持ちが逆転して、憎しみと怒りで色を染めた。表面上は取り繕って、常識人の顔をして、そう、わかったなんていい女を演じてみたけれどそんなんじゃあなかった。



次第に私の心は落ち着いて行った。隼総との距離を置けばいい、必要以上の接触をしなければ隼総にのめり込まずに済む、考えなくて済む、もう嫉妬も依存もしなくても平気なのだ。だけど、なんだ、心に風穴があいてしまった。ぽっかり大きく黒い口を開いている。塞ぎようのない風穴に私は虚しさを覚えながら、ふらふらと椅子に浅く腰を掛けた。頬杖をついてぼんやりと天井に開けられた穴の数を数えて。「おい、名前」「……あ、隼総」



別れようって言ったくせに隼総は未だに友達を気取る。私はこのわけのわからないもどかしい関係性に苦鳴を漏らすこともせずに、作り笑いを浮かべては、雑談に耽る。頻度の少なくなった雑談に。もう何も思わない、もう何も感じない、もう何も、……隼総なんて好きじゃない。好きじゃない。何度も言い聞かせる。それは虚しい努力だった。私はまだ、隼総が好きだった、だけども、もう何もかもが許されなくて、何がいけなかったんだろうね。最初から恋人だとか友達だとかじゃなければこんな気持ちに成らなかったのにね。ああ、そうか、私が一人ぼっちだったらこんな気持ち、味わわなかったのか、そうか、そうか。


title Mr.RUSSO

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