イカロスの羽



近すぎては駄目なのだ、蝋で出来た羽を作り太陽に焦がされ落ちていった、イカロスの様に成ってしまうのだ。名前は現在、恋をしている。勿論あたしにではない、そもそも、名前はあたしのような人間ではないのでまっとうな恋をしている。きちんと男の子が好きに成れる子だった。私はほうと、熱の籠った溜息を聞くのすら嫌気がさしていた。本来ならば応援するべきところだろう、もっと、ガンガン攻めろよ!とか身も蓋も無いような助言を言っていたかもしれない。だけど、ぎこちない微笑を浮かべて、まあ、頑張れよなんて心にもない事を言うしか出来ないのだ。そのたびに有難うって小さく言葉を紡ぐ薄桃色の唇。何度キスをして見たいと思ったことだろう(きっと、甘かろう)。



罪悪感を覚えたことは多々ある。例えば、本当の意味で友人(と今は言っておこう、でなければ色々な物が破綻してしまうのだ)としておもねるのであれば、あたしは失敗作だ。胸のふくらみに詰まっている物は何だと思う?綺麗な恋心だけじゃあないんだ。綺麗ごとだけの世界を生きていくにはあたしは、汚れすぎているのだ。あたしがその世界に入れば徐々にその世界は浸食されていって、汚い色彩を生み出すに決まっている。「なあ、名前、進展はあったか?」白々しい言葉の数々、でもまだ友人として成立している、成立しなければならないのだ。「ううん」物事はどうやら進捗していないようだった。あたしは内心よっしゃなんて思って、最低だなって思った。



あたしと名前は幼馴染だ。幸いなことに名前はあたしのように道を外れることはなかったけれど、あたしと名前は相変わらずに仲が良かった。お互いの家に行き来したり、放課後にちょっとしたものを食べたり買い物をしたり、それでも今は遠い日々の思い出とばかりに、水葬されてしまいそうなのだ。あたしの中ではまだ、思い出なんかじゃない、リアルなのだ。「  君、私のことうざいとか思っているのかなぁ」名前の部分はいつだって、古びた映像の様にゆっくりと聞こえて、伝達を拒否する。助けてくれ、その名前はもう何度も聞いて何度も削除してきたものだ。「そんなこと思ってねぇーって」慰めの言葉はいつだって白々しい響きを持っていて、毒素にまみれている。



思うにイカロスは太陽に近づきすぎたのだ。適度な距離さえ弁えていれば、あたしが、除外されることはないだろう。永遠の友達で、居れば。それでも、あたしは、墜落してもいいとたまに思ってしまうのだ。だって考えてくれよ、永遠に友達で名前が幸せに成ったり不幸に成ったりする様を見なければいけないんだぞ、一度でいいからあたしの行動を意識して貰いたい、恋人の様に抱き合いたい。名前が有難うってまた小さく呟いた、その物憂げな表情にあたしはまたドクリと心臓を動かされて。イカロスの墜落まであと、何秒……?

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