永遠の夕暮れ時



還りたい場所があった、の夢主は帰れたようです。



おかえり、の声を聞いたとき私は何事も無かったかのようにこの世界に戻れたのだと知った、外は相変わらず夕暮れ色に染まっている。夕暮れを見ると感傷的に成る、例えば夕暮れは帰る時間、例えば夕暮れは日が沈む頃合い。夕暮れは、……あの日見た世界の空間。「また、逢いたいと思っていた」「でも、君は此処が何かを知っちゃったねぇ……何もわからないままでいてほしかったのになぁ」そうだ、此処は私がマンションから飛び降りて体を打ち付けた時に見た幻影だ。だけど、今はまた、此処に存在している。「もう辛いことも何もないよぉ……、此処はね、君の夢だから」



いつまでもいつまでも此処にいるといいよと笑って宵一が「また、此処を案内してあげる」って屈託なく笑って見せた。相変わらず、胡散臭く感じるけれど。「でも、此処にまた来たってことは」「死んじゃったかもねぇ、」「何で此処に戻れたと思う?」宵一に尋ねれば宵一がサングラスをくいっと指先で頭のいい人がするように持ち上げた。「……君が望んでくれたからだよぉ、僕たちはいつだって此処にいる、此処にいるよ」誰も君を傷つけない、誰も君に危害を加えない、此処は素敵な世界さ。



「私、夕暮れは見たくない」「駄目だよ、それだけは変わらない。名前が望んでもこの世界は永遠に夕暮れに閉ざされている、朝も昼も夜も無い。ただただ、無限に続く夕暮れの世界だ」はぁ、と溜息をついて宵一が言った。「名前が見た世界は最後は夕暮れだろ、名前が力なく見上げた、空はこんな風だったんだろう?」きっと、そう。ずっと同じ夕暮れを見ているからどれが違ってどれが本物かわからないけれど。「此処に居ればきっと永遠の夕暮れ時も悪くないといつか思えるさぁ」大丈夫、大丈夫。僕は名前が好きさ、って都合のいい事を言ってくれる。「好き?」「そう、好きだよぉ?」その温かさが逆流してしまいそうなほどに、愛しかった。



あれから、何度過ごしてもやはり、見上げる空はいつだって夕暮れが大きく手を広げているだけだった。変わらない変わらない。気が狂いそうだと思ったけれどもう気が狂って手遅れなのかもしれないと思った。宵一がよっこいしょと少し離れた場所に腰を下ろした。「帰りたい?」「……わからない、」あの時は無性に帰らなければ帰らなければと半ば義務の様に思っていたのだけど、きっと帰ったらまたあの日アスファルトに寝転がりながら痛みと虚しさに耐えながら帰りたいと願うのだろう。



「……帰りたいってあまり思わないってことはきっと手遅れかもしれないよ、僕は悪い子だからねぇ、君を引きずり込むために言っているだけかもよぉ?」もっと世界を疑え、でなければ背後から影が襲い掛かってきて食い散らかしてしまうよ。残った残骸はきっと誰も触れもしないさ。「まだ、帰れるかもしれない。此処と向こうとでは時間の流れが違うんだ」此処は悠久の時を刻んでいる。「……帰りたくない、永遠に夕暮れでも構わない」優しい夢と、オレンジ色のカーテンに抱かれてそのまま殺されてしまいたいのだ。「……うん、いい子だねぇ、おいで」あの時スローモーションで滑り落ちたのを思い出したから今度はゆっくりと慎重に慎重に宵一に近づいていった。



崩れ落ちることは無かった。抱き留められる宵一の体温があまりわからなかったけれど、もうこれで何もかもが手遅れなんだろうな、もう戻れないんだろうなと頭の片隅で思った。私はこの永遠の夕暮れの時を生きる、住人だ。

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