つまり私は恋をしている



絶対に応援に来るなと、常日頃、口癖のように言いつけられていた。何故なのか、普通彼女が応援に行きたいと言えば快く「おう、絶対に俺を応援しろよな」とか言うのが彼氏というもんじゃあないだろうか、と苗字は思った。なのに、磯崎はそれを突っぱねるようにいつも来るな来るな、絶対に。でないとお前を絶望させるぞとか言い出すので、絶望は磯崎の口癖かとからかってやった。本当は苗字は応援に行きたいと思っていた。マネージャーでもなんでもないし、フィフスセクターとかよくわからないけど、負け戦と勝ち戦があるのは知っているし、負け戦がどんなに無様な物でも受け入れる自信があった。だから、磯崎の反応は中々に解せなかった。何故、此処まで拘泥するのか、わからないのだ。



今度こっそりと応援に行ってしまおうかと考えたけれど磯崎の性質を考えると、烈火の如く怒り狂って、部員にも厳しく当たってしまうんじゃないだろうかと懸念もされる。矢張りそうなると行かないという選択肢しか残らない、残念だが磯崎を応援することは苗字には出来なさそうだった。どうして駄目なのか篠山に相談してみた。「やっぱり格好悪い所は見られたくないからじゃない?」と尤もそうな事を分厚い唇から紡ぎ出した。しかしまあ、苗字としてはそんな格好悪い部分も含めて磯崎が愛しいわけで、全てを受け入れる覚悟があるのにと、到底、納得できない回答でもあった。篠山がうーんと、緩く腕を組んで考え込むような仕草を見せた。「そうだ、俺が磯崎に交渉してあげるよ」「お願い!」



篠山の協力をもってしても磯崎の意思、および意見は変わることが無かった。来るな!の一点張りである。何でなのと食い下がると磯崎がため息とともに顔に手を当てた。何か言いにくそうに口をもごもごと動かしているのが見える。いつもの鋭い瞳も健康的な色の肌も少しだけ赤みを帯びているように見えた。「来るな、本当に来るなよ。ふりとかじゃねぇぞ、」「わかっているよ」「負け戦を見られるのが嫌って言うのも一つの言い訳だけど、実はもう一つある、笑うなよ」「笑わないよ」此処まで真剣な磯崎を前にして笑うなんて失礼な話である。磯崎が一回しか言わねェから耳の穴かっぽじって聞いておけよと言ったので、苗字は全神経を耳に集中させた。



「お前が見に来ると、調子がでねぇんだよ……お前の事を探しちまうし、名前のことばかりが頭を支配しちまうだろうが!それくらい察しろよ、ばーか!」磯崎がもう二度といわねぇ!と言って、それきり塞ぎ込んでしまった。「研磨、私の事なんか空気だと思って、プレイに集中してよ、私、研磨の格好いい所みたいよ」「できねぇよ!そんなに器用じゃねぇから!」あー、もうこの話は無しだ無し!と磯崎が手を小動物を追い払うようにしっしっとやったので今回もこの話はお流れになりそうだ。でも、苗字は前の様に嫌な気分もしなかったし、寧ろ少しだけ嬉しい気持ちにさせられたのだった。


title 箱庭

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