そして天秤は傾いた



湾田君は優しいのだと思う。超常現象が大好きらしいけれど、それも定かではないなと最近思うのだ。チチチ、小鳥が囀り枝を揺らしたのを見て湾田君が今日も超常現象はなさそうだなと言いつつも爛々と、その瞳を好奇心で輝かせていた。(勿論演義かもしれない、湾田君はきっとそういうのがきっと得意だ、此処から出られない私を哀れみ此処に留まってくれているだけに過ぎやしないのかもしれない)此処は何もない、静かな病院だ。私は今、病を患っている。別に大したことはないが日常生活には、支障があり学校に通えていないという状況である。よって、友達は少なく来訪者も少ない。たまに先生やごく一部の友人が通ってくれるだけだ。



「それにしても幽霊さんは何処かねぇ?」湾田君が手を翳してきょろきょろといつものようにあたりを見渡して、幽霊さんとやらを探している。此処は大きな病院だから確かにそんな噂も無くも無いのだけれど私は未だにそういう体験はしたことはないし、見たことも無いので、そんなものはいないので此処に通っても無駄だと助言をしているのだが、湾田君はお構いなしに鼻歌交じりに言った。「居てもいなくても、そこに超常現象がある可能性がある限り俺は居るぜ」それならば万能坂にいけば、少しは可能性が上がるのではと言ったが湾田君は首を横に振っていんやって否定した。



「あそこにはいないぜ、俺が何日か通ったけど幽霊のゆの字もないし、超常現象なんか無かった、まだこの病院の方が可能性あるってもんだぜ」あんなトンネル怖くもなんともねぇ、それに本当に出るならば、今頃は磯崎も篠山も光良もみーんな取り殺されているぜってさらっと病院では禁句であろう言葉を口にしてはにかんだ。私は注意する気にも成れずに「あー、そう……」と呟いた。同情するならこんな所に通ってくれなくていいのに、此処は楽しい所じゃない、俯いて私は湾田君に言えなかった言葉を口の中で押しとどめた。



「……大体、湾田君の化身?あれがそもそもの超常現象じゃない?」「あーれーはー、違う!もっとこう、あり得ないのを俺は求めているわけ」十分あり得ないけど。とサッカー未経験者の私が思ったところで湾田君があー、もう、とその特徴的なドレッドヘアーを崩すようにかき乱した。「……自分が追い求める超常現象の為だけに此処まで通いつめたりしねーっつーの。俺は暇人だけど、もっと暇に成りそうなことはしないわけ!もっとこう、自分に素直な人間なわけ、なんでわからないわけ?幽霊はずーっと張り込んだけどでねぇし、此処は面白くねぇよ」



ほら、やっぱり湾田君は無理をしていると指摘すればそうじゃない!と怒ったような悲しいような入り混じった表情を見せた。初めて見た表情だった、いつもの飄々としていて軽い湾田君はそこにはいなくてただ、同い年の男の子が直立していた。「……お前に逢いたいから来ているんだ、幽霊なんてどうでもいい。名前の笑顔が見たいから此処に来ている」なのに、なんで俺はお前の曇った笑顔しか見られないんだ、と悔しそうに握り拳を作って、険しい表情のまま俯いた。



自惚れてしまいそうで、苦しくて、確かめたくて私は尋ねた。「あのね、此処には、幽霊は居ないよ」「知っている」「……此処は楽しくないよ」「それも知っている、超常現象は此処には無い。でも代わりに名前が居る」それだけでいいじゃないか、と力なく笑った、それから、湾田君は超常現象を探しに此処にきたと茶化したように言う事は無くなった。その代りにと埋め合わせるように「お前に逢いに来た」と悪戯に笑って通うようになったのだ。

title カカリア

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