騎士も時に乙女になる



「こら!また、あんたたちね!あっちに行け!神童、大丈夫だった?」名前が俺をからかっていた、少し恰幅の良かった子供を追い払った。あいつらはたまにからかってくる。そのたびに名前が怒って追い払ってくれる。霧野が居る時は、霧野も一緒に追い払ったりしてくれるが、霧野自体もあの顔のお蔭でからかわれるのであまり、あいつらとは関わり合いになりたくないようだった。それでも、友人である俺の為に身を挺してくれる。「あー、もう泣いているし!神童は本当に泣き虫さんね!何よ!ちょっと、からかわれたくらいで泣かないでよ!私すぐ泣く子は嫌いなの」「うっ、ぇ……くすん、嫌わないでくれ。すぐ、っく、泣き止むからっ、」小さい頃から名前の方が、気が強くてメンタル面も俺より脆くなかった。



名前は中学に上がってからも俺と交友はあるものの、俺の事がめんどうくさいと思っている節があった。それでも、幼少の頃から泣いたら名前と居たら安心して泣き止むことが多いのでつい、頼ってしまう。弱みを唯一見せられる相手だった。「あー、もう、また泣いているのか。泣き虫」罵倒のような冷たい言葉を浴びせた後にペチペチと軽く頬を手で叩いた後に、涙を追って拭うと手を軽くぶらぶらと振って涙を落とす。ああ、また嫌われた。どうして、こうも涙脆いのだろうか……他の皆は辛いことがあってもぐっとこらえた様に唇をかみしめたりして耐えているというのに、俺だけはぷつって簡単に涙腺が崩壊してポロポロ涙を零すのだ。



「顔は兎も角として、霧野の方がよっぽど男前ね」「怒られるぞ、」「いいの。霧野は怖くないから。……神童は昔からそうね、私がいつも守っていた気がするもの」今よりも広く感じられた家の庭で遊んで、たまにピアノを弾いて、三人で過ごす事が多かった。楽しかったことも多いが、神童は今よりもワンワン泣いていた気がする。今は堪えようとする努力をしているが、昔はその努力をあまりしていなかったから、余計に名前はそう感じてしまっていたのだろう。「……あー、この子私が守ってあげなきゃなーって思っていたもの。よく小さいときは、親にも神童を守ってあげるのよって言われて、私が神童の騎士なんだって思ったの」「普通、逆じゃないのか?」「泣き虫で繊細な癖に、よくもまぁ」実際に私が守っていたじゃない。神童は私の背中に隠れていたことの方が多かったじゃないの。って、ようやく涙が止まった俺にポケットティッシュをくれた。



「でも、今は嫌なんだろ?」「……別に嫌じゃないけど、そろそろお役御免じゃないかしら。全ての災厄から守れるわけでもないのよ。昔とは違うの」大きくなれば自分の立場を把握できるようになる。あの頃は立派に害となるものを排除していたつもりだった、それでもやがては夢から覚める。体格や身長が負けはじめたあたりから、ああ。その役柄はきっと自分には務まらないと。「そんな役割を俺は気にしたことが無い。俺は、今は違う。守られるだけの、弱い男のつもりは無い。今度は逆がいいんだ。全ての降り注ぐ、災厄から名前を守りたいと思っている。だから、俺を信じて、俺の傍に居てほしい」神童ももう、守られるだけのお姫様、王子様じゃないということなのか。ああ、それにしても、私なんかでいいのだろうか?とか素で口から出てくる私は随分と乙女に成ったものだ。

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