夜は星を置き去りにする



全く我が儘な友人だ、口には出さないけれど隼総は思った。今回は何が原因で隼総の所まで、やってきたのかは知らないけれど飛び火で、睨まれるのは彼なのだから、勘弁してほしい。されども、泣きつくように苗字は喜多の悪口、もとい、何かをしきりに訴えかけているはぁはぁ、惚気か勘弁してくれよと思った刹那、苗字が泣きじゃくり始めた。きっと、喜多は私を探しにここまでやってくるはずよ、お願い匿って頂戴、後生だから。と跪き、請わん勢いで言うものだから隼総も焦ってしまった。この現場を目撃されれば、喜多だってきっと静かに怒りを湛えるだろう。



苗字の言い分は決まってこうだ、喜多は束縛が激しくて、メールも電話もすぐに返さなければストーカー並みに送り付けてくるから怖い。他の男と話すだけでも睨んでくるし、酷い事をしてくると。隼総は信じていなかった。我らがキャプテンと言えば硬派で、頭が良くて、天河原の中でも良心的で常識人、そんな喜多が酷い事をするなんて考えられなかった。よって、これはすべて、苗字の誇大妄想なのだ、話が盛られているのだ。少なくとも、天河原にいるサッカー部の連中の多くはそう思っているだろう。



「なぁ、わかったからさ、いい加減キャプテンと仲直りすればいいじゃないか」「なんで、なんで隼総もわかってくれないの。喜多は異常なんだよ、もう別れた……」その時だった。紳士的にコンコンと部屋の扉を手の甲でノックする音が聞こえた。これが西野空とかだったら無遠慮にどんどんとか足でけったりもしてくるのだからたまったものではない、直ぐに喜多がやってきたと判断して隼総は中に招き入れた。「ああ、キャプテン。名前ならいるぜ。また、喧嘩したんだってな?」喜多は照れ臭そうに笑って言った。「ああ、そうなんだ、今回は俺が悪いから仕方ないんだけども」



「おおい、名前、キャプテンが迎えに来たぜ!」玄関に顔を見せることのない苗字に玄関先から大きく声を張り上げて、彼氏の登場だと隼総が告げた。苗字は震えながら、「いや、出たくない」の一点張りだった、やがて、隼総が業を煮やしリビングに戻り苗字の手を引いた。向かう先は勿論、礼儀正しく玄関先で待つ喜多の元だった。「ほら、折角迎えに来てくれたんだぜ?いい彼氏じゃないか。非の打ちどころのない、な」「いや、いやっ!!」ずるずると引きずられるようにして、喜多の元へ連れてこられた苗字の顔は絶望の色一色に染まっていた。何故、隼総は私を匿ってくれなかったのか、とか、またあの日々が続くのか戻るのか、そう思うだけで胸が張り裂けそうなほど鼓動をしているのがわかった。「名前、さっきはすまなかった」紳士的な笑みを絶やさずに喜多が詫びた。



詫びた所で数日も持たない、直ぐに執拗以上の束縛をしてくるに決まっている。今までだってそうだった。西野空にも、星降にも隼総にもわからないこと(彼らには喧嘩が多いだけのバカップルに見えるらしいし、喜多は何より完璧な彼氏だと目に映っていたに違いない)。彼は頭がいいのを利用して、全てを黙殺し操っているのだ。「い、いや、」「さあ、帰ろう?」喜多の切れ長の瞳が苗字を捕えた。もう逃げられない、「は、隼総……お願い、」「いい加減仲直りくらいしろよ。名前も意地を張っていないでよ。キャプテンはいい彼氏だと思うぜ、今日だって喧嘩したのに迎えに来てくれたじゃあないか」お前は幸せ者だなと、ポンと背を叩いて苗字を喜多の元へと送った。その時の苗字の絶望した表情は喜多しかわからなかった。


title カカリア

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