彼女の憂鬱



前作:監督の憂鬱


やっぱり、というか何というか監督はやっぱり私たちのことなんて認めてなどくれなかった。冬花は幸せそうに笑ってくれるし、私の中で一番大切な女の子だけど、私は同性だから、やっぱり男の子のように彼女を本当の意味で幸せになんかしてやることは出来ないと心の底で勘付いていた。冬花にとっての幸せを私では測りきれないけれど、うん、きっと無理なんだよ。ベンチに座って、冬花がお弁当を差し出してくれた。私に朝早く起きて作ってくれたらしい。「有難う」「うん、名前ちゃん。甘い卵焼き好き……?」「好き好き〜」寧ろ冬花が作るものは何でも好きさ!憂鬱な考えを必死で振り払いながら、冬花の前ではなるべく明るく振る舞う。あの時は監督に勝利したものの、やはり、監督の意見のほうが正しいと私は気が付いている。冬花はどう思っているのかわからないけれど、私といても終焉は見えているのではないだろうか。お弁当箱をパカリとあけて、冬花の作ってくれた卵焼きを食べる。甘くて美味しくて、自然と笑みがこぼれた。「あ、美味しい。流石、冬花〜。いいお嫁さんになれるわぁ」「ふふ……、そうかなぁ」照れたように大げさだよ、と笑う。私は彼女をお嫁さんにしてあげられないけれど。



「あーあ、それにしても監督はやっぱ、認めてくれないよねぇ。はぁ」「お父さんも、きっと、わかってくれると思うの。だって、好きに成るのに理由なんて必要ない物。それが男の子だろうと、女の子だろうとね、好きに成ったら止められないよ」冬花は冷静にそういうものの、私は一生認めてくれる気がしない。大体、その辺の素敵な男子を連れて行っても、監督の場合は全て突っぱねそうな気がしてならないのだ。いやに過保護と言うか、なんというか。監督は誰なら素直に認めてくれるんだろうか……。「どうだろうね。私、監督はどんなに素敵な男子連れて行っても認めてくれないと思うんだよね」遠い目をしながら本音をぶっちゃけると、冬花が控えめにクスクスと笑う。「……そうかな?」「絶対にそうだよ」ましてや私ではもっと無理だ。ハードルは高すぎて空を突き抜けて大気圏に突入しているんだ。そんなものどう足掻いたってよじ登ろうとしたって、越えられない。



古い映画やドラマなんかでは、親に認めてもらえないがために駆け落ちなどと言うものをするらしい。もしも、冬花も私を好いてくれているのならば、愛の逃避行なんて素敵だなぁ、なんて思った。きっと、私は冬花を連れて、何処へでも行くだろう。「冬花と離れ離れになるくらいなら、私、冬花を浚うわ。駆け落ちってやつ?」「か、駆け落ち?」冬花がまさかの単語に、キョトンとした後に不安げに私を見つめる。勿論、冗談なのだけど。私には冬花を浚うなんて、度胸はないけど。そもそも中学生に何が出来るんだろう。精々隣町とか、少しの期間行方をくらませるのが限界だと思う。それもそれでとても素敵な思い出に成るだろうけれど、冬花に迷惑をかけたくない気持ちの方が先行していた。「そ。世界の果てまで冬花を連れて逃げちゃう。っていうのは冗談だけど、どうしたものかなぁ」



ミートボールを口に運んで、咀嚼する。彼女に、お弁当作ってもらう、だなんて浪漫あふれているよ、本当。うんうん。「そんなに悩まなくても、大丈夫だよ」控えめに冬花が呟いた。私が首をコテン、と傾けると私に話し続ける。「……私、名前ちゃんが大好きだから」「ふ、冬花……!」今の言葉に瞳を潤ませて、服の裾で一度拭い冬花の手を取った。ああ、この一言で確信した、やっぱり私は冬花を愛している!それも世界で一番ね!「私も大好きだよ、冬花」さあ、て。どうやって監督を無理にでも頷かせて納得させてやろうかね。



彼女の憂鬱

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