汚い友人



夢主は報われないし、冬花も若干酷い。
50音の外のお話に続いている。


友達というにはあまりにも汚いのだ、私の存在は。冬花が円堂へ思いを伝えられずに、夏未と結ばれた時に私は、凄く晴れ晴れとしていた。これできっと、冬花を円堂に取られなくて済むんだって思ったのだ。夏未は気が強いから、浮気とかきっとそういうことも許さないだろう。最初は泣いて悲しんでいた。そんな痛ましいほどに弱った冬花を見るのは、心が痛んだけれどすぐにそれは、私にとっての最大のチャンスであると理解してアプローチをかけ始めたのだ。なんて汚い友人だろう!いや、私は友人ではない。冬花はそう思ってくれているだろうが、私は友人なんかじゃないのだ。「冬花、無理しなくていいんだよ」優しい言葉は毒の様だった。汚い色彩を生む油の虹のようだ。有難う、有難う。嗚咽しながら、私に抱き着きながら涙を零した。生まれて初めて彼女に抱き着かれた気がした。私は手を回して、ただただ冬花をあやす様にポンポンと背中を擦ってあげた。それは泣き止むまで続いた一連の行動であった。



あの日泣いて以来、冬花は泣かない。無理して明るくふるまっているのが見え見えだ。だけど、それは日常生活の些細なミスなどに表れて如実に物語っていた。仕事でミスがないという所が救いか。流石に私情を、仕事には挟んでいないようだった。冬花が携わるのは医療である。ミスをすれば死者が出るかもしれない。冬花は、脆いけれども私が思っているよりは、強かった。心に出来た大きな傷を、治すように私は冬花の話相手をするようになった。まだ、打ち明けるには早いだろう。もっと、心の中にまで潜り込んで今だって言う時にタイミングよく食い破るのだ。寄生虫だってそうだろう?最初は宿主を殺したりなどしない。わざと生かして利用するんだよ。……冬花、好きだよ。どうしようもないほどにね。



以前のように笑顔を取り戻して、笑ってくれるようになった。そうだ、覚えている。私が一番初めに冬花に惚れたのもこの儚げで憂いを帯びた笑顔だったんだ。グルグル、沢山砂糖を溶かしたコーヒーにミルクを入れて。甘ったるい味を舌先で感じながら飲み込む。笑めば、目前に彼女が居る。手を伸ばせば、触れられる。だけど、それはまだしないでおこう。何れは、触れるけれど。時期尚早である。「円堂も惜しい事をしたよね」円堂の名前を口にするのは些か、早かっただろうか?だけど、冬花は取り繕った微妙な表情で「そうかな?」と笑んだ。少し、揺さぶれば決壊してしまう程度の物であった。「そうだよ。実に惜しいね。……私ならば夏未じゃなくて冬花を選んだなぁ」彼には沢山の選択肢があっただろう。それから、枝分かれした未来も。「ふふ、本当?じゃあ、」私を貰ってくれる?



きっと、冗談で言ったんだろうし、深い意味なんてなかったんだろう。だけど私はそれを二つ返事で受け入れた。実に軽い物だった、だけど冬花と違う点と言えば、私は本気だった。「勿論」私ならば、冬花に悲しい思いなどさせないよ。浮気もしない、博打もしない。ただ、奴と違う点と言えば……私は女だ。きっとね、今もこれからも彼女に女性としての幸せや喜びを授けてなんかやれないし、不可能だ。「嬉しいなぁ。名前ちゃんにそういってもらえるなんて」「私は冬花の味方だからね」そうだ、基本的に私は善悪の判別もせずに彼女の味方に成ろうとしている。たとえ世間が間違っていると言おうとも私だけは正しいと主張し続けるだろう。それが、内心間違っているとわかっていてもだ。



あれから、少しだけ歳月が流れた。私たちはまるで恋人のように日々を過ごしている。お互いが好きとは一度も発していないけれども、はた目からは恋人の様であった。ハグをした、それからお遊びのようなキスをした。まるで、子供のおままごとの様であったけれども望んだ関係に最も近かったので私はそれを放置した。何れ冬花に私の思いを伝えたい。きっと、キスも受け入れてくれた冬花は拒絶をしないだろう。どれだけ長い間私は冬花を望んでいたかわからない。円堂と結ばれていれば私は一生報われなかっただろう。こんな掠め取るような、ずるい形で冬花と居るのは可笑しい事だろうか?……神様も粋なことをしてくれるよ。



終幕。私はやはり汚い友人であった。ああ、友人と言っておこう。何故ならば私は冬花の恋人なんかではなかったからである。白衣の天使は完全にその羽の傷を癒した。そして、新しい恋を自分で見つけてきたのである。「名前ちゃんに言っておこうと思って。私、付き合うことにしたの」この人、そう言って写真を見せてくれた。今日はどうやらその人は仕事らしい。頭の良さそうな若い男で、どうやら職場で知り合ったらしかった。聞いてもいないのに冬花はどんどんと言葉を続けていく。「今まで、沢山励ましてくれて有難う。名前ちゃんのお陰だよ。名前ちゃんは私の、一番のお友達だよ」その言葉はすべての終わりを意味していた。沢山の抱擁も、キスも何もかもがその言葉だけで無かったことに成った。それから、これからはもうこんなことしないでね、って意味も同時に持ち合わせていたのである。



私はこんな結末の為に、冬花を慰めたわけではない。何もかもが頭の中ではじけ飛んでぐちゃぐちゃにつぶれたトマトみたいになって私は冬花の体を、フローリングの床に押し倒した。警戒も何もしていなかった冬花を押し倒すのなんて容易であった。目をまあるくさせて瞬かせている。冬花の首筋に顔を埋めて軽く噛みついた。男はずるいよね、きっと私が男だったら友達なんかで終わらなかったのにさ。冬花も冬花だよ、ずるいよずるい。私が好きなの知っていたでしょう?それとも、口に一度も出さなかったから知らないふり?私、好きでもない子とキスなんて出来ないよ。もうね、寄生虫は宿主を殺してもいいと思っているんだよ。それは、崩壊の合図、福音。「冬花、好きだよ」自己紹介いたします。私は冬花の一番汚い、友人です。

戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -