明日を見つけた子供達



一、小さな女の子がクマのぬいぐるみに似たアンドロイドを抱きしめた。彼の名はワンダバ。本当はもっと長い名前なのだが、彼女が長くて覚えられないと言って略した名前ワンダバと名乗るようになった。彼女の名前は名前。小さい頃から親は忙しくて名前にかまっていられないからとワンダバを買い与えたのだ。ワンダバは子供向けに作られたアンドロイドだった。名前はワンダバを大層可愛がって、寝るときもいつでも一緒だった。「ワンダバ、ワンダバー」「おお!名前じゃないか!なんだ、お腹でも減ったのか?」「ワンダバー大好きー!」そう言って、更にきつく抱きしめた。「おおぉ!告白ならば、もっと大きくなってからしてくれ!私も名前が大好きだぞー」



二、少しだけ大きくなった名前は相変わらず、ワンダバと一緒だった。でも、一緒に寝ようと言おうとはならなくなってきていた。それでも、ワンダバの事を大事にしていた。「ワンダバ、あのね、私一人で寝られるようになりたいの!皆も、一人で眠れるようになってきているんだよ。でもね、ワンダバが嫌いに成ったわけじゃないの。ごめんね」ワンダバは大げさなリアクションで腕を組んで偉そうに「……そうか!そういう事ならば仕方がないな!一人で眠れないときは遠慮なく、私を呼ぶんだぞ!いいな!お化けはいないんだからなっ!」「わかっているってば、ワンダバ!」ワンダバの頬の付近にキスをして、名前が自室の扉を閉めた。ワンダバはおもちゃ箱の付近に腰を下ろした。ワンダバは気が付いていた。「このおもちゃも、昔は名前が大好きだったのにな」おもちゃ箱から、女性を模した人形を出して大事そうに撫でた。



三、名前の帰宅を告げるベルが鳴る。名前は最近自分と同い年の女の子とよく一緒に遊んでいる。その女の子がワンダバを見てわぁと声を上げた。「この子可愛いー。ぬいぐるみ?」「違うの。ワンダバはアンドロイドよ」「よくできているわね。私もこの間アンドロイドを買ったのよ」ワンダバは声も上げずにその情景を見つめていた。やがて、台所にてくてく歩いて行って、ジュースとお菓子を乗せたお盆を置いて歓迎した。「よくきたな!ゆっくりしていくといい!」「わぁ、クマさんすごい〜!有難う!」親のような態度をしていた。現にワンダバ自身は名前にとっての親のようなものだと自分で思っていた。そして、いつか子供が親を必要としなくなる時が来ることも知っていたのだ。子供はいつまでも子供ではいられない。今の子供は、いつか未来の大人であり。今の大人は、遠い昔の子供であるということを。「クマさんのアンドロイドじゃなくて、人間型のアンドロイドなんだけど、便利よ」「そうなんだ」「名前も人間型のアンドロイドを買えばいいのよ。便利よ、この子小さいから子供用の玩具アンドロイドでしょう?家事とかできるの?」そう言ってワンダバを指差した。「失礼なああ!私は小さくないぞっ!それに、家事だってしっかりこなせている!」ぷりぷり怒りながら、腕を組んでその場にどっかりとお尻を付け座り込んだ。「いいの、ワンダバはこれで!私は人間型のアンドロイドは要らないの」「そぉ」それきり、アンドロイドの話題からは逸れていったらしく、学校で好きな男の子はいないのかという話題に成った。



四、いよいよ、名前がワンダバを必要としなくなる日がやってきた。日増しにワンダバとの、交流は減っていっていたし会話することも無くなっていた。ワンダバは子供向けに作られたアンドロイドだった。何れこうなることもしっていたはずだったのに。呟いた。「……名前」大人に成るという事はなんなのであろう。子供であり続けるという事は何であろう。名前もまた、遠い昔の子供たちに成るのだ。そして、「ワンダバ、お疲れ様。ワンダバを必要としている人にあげることにしたの。私ワンダバが好きよ、絶対に忘れない」音を立てて、ただただ。「そうかっ!わかったぞ!お前も、もう子供なんかじゃないんだな!名前」必死に撫でようとパタパタ手を動かしてももう、名前には届かなかった。「ワンダバ、うん。ワンダバ大好き、でもねこの世界にはきっとワンダバを必要な子供たちがいると思うの。だからごめんね、ワンダバ」「いいのだ!私を必要とする人間がいるのならば、そこに行くぞっ!だが、忘れるな!私は名前のアンドロイドだという事を!」ただの空元気で良かった。大人は子供のおもちゃでなんか、遊ばない。おもちゃたちは、おもちゃ箱にしまわれてそのまま、押し入れに入れられてしまうの。暗くて、お日様が見えない。それから、じめじめしている。そこで、いつか「わあ、懐かしい」って埃を吹き飛ばして言われるのを待つだけなのだ。そんなのは嫌だった。



五、「名前、最後に一緒に寝かせてくれ」最後の夜にパタパタと夜のしんとした空気にぬいぐるみの足音を響かせて、ワンダバが訪ねてきた。名前は、あれから一度もワンダバと寝ていなかった。今までずっと自分のテディベアのように大事にしてきていたのに。誓ってからは一度も。だから、あの日に戻りたかったのだ。あの日のように抱きしめられて苦しい苦しいと言われながら眠りたかったのだ。暑苦しくても構わなかった。「……うん、ワンダバ。あのね、たまに元気な顔を見せてね、ワンダバ」「……ああ、」ベッドの中にもぐりこむと小さく子猫のように丸まった。名前がワンダバの体躯を容赦なく抱きしめた。昔はおばけを怖がる、名前を抱きしめて眠ったけ、とワンダバが思い出していた。大きな黒い作り物の瞳に名前が映って、名前だと認識する、もう小さい子供はいなかった。「言い忘れていたぞ。……私も名前大好きだ」夜は更けていく。ただ、静かに腕を大きく伸ばして。息の根を静かに止める


title カカリア

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