楽園は不透明になりつつある



ロデオ酷い子。若干の性描写を思わせる何か。


フェーダの本拠地である場所に唯一、特殊な能力を持たない子供がいた。名を名前と言い、ザンに属するロデオに良いように扱われていた。都合のいい時に、憂さ晴らしをして酷い言葉を投げかける。ある時は手荒く抱いた。それでも、逃げ出さなかったのはなぜか。いや、最初のうちは逃げ出そうとしていたし隙あらば、脱出を試みていた。そのたびに暴力や何やらで支配を重ねていくうちに名前は思ったのだ。「この人は可哀想な人なんだ」と。暴力やそういうものでしか自分を縛れない。その上に、ああ可哀想なことにこの子たちは大人や周りに受け入れられなかったがために愛情に飢えているのだと気が付いたのだ。



「ロデオ、貴方は可哀想……」「はっ、お前らと同じにするな。俺たちは、お前らよりもすげぇ存在なんだ」だから、お前を自由に出来るしお前を殺すこともできる。口元は相変わらず覆い隠されていて、読めないけれど目が笑っていた。それは月の満ち欠けに似ていて、よく表情をころころ変える。ただ、それと違うのは激しく変化するところだ。「それに、俺は可哀想なんかじゃない」「人に認められなかった、迫害された。疎外された。だから、今私に求めているんじゃないの?貴方は能力に目覚めてから、両親にも愛されなかったんじゃないの?そして、私にその代りを務めさせようとしている」そこまでいって、首に手をかけられた。ギリギリと力を込めていって指先が食い込んでいく。「うるせぇ。いい加減にしねぇと殺すぞ。お前らを殺すのなんてわけもねぇんだ!」実際に何人も殺している!ただ、生かしてやっているだけなんだ!俺の、気まぐれで!怒りと憎しみに染まった瞳をきつく細めて、手の力を強めた。



名前の顔色が悪くなるのを見て、ハッと途中で何とか正気に戻って拘束を解いたロデオはその場に項垂れた。名前はげほげほと急き込んだ後に、ロデオの華奢な体を抱きしめた。そのようなことをしてきたのは初めての事だったし普段のロデオならば、突き放していたかもしれない。だけど、その時のロデオは何を思ったのか名前の体を抱きしめ返したのだった。泣きそうな顔のまま、名前の胸に顔を埋めた。その仕草は、子供が愛情を求める仕草に違いはなかった。だが、それとは違うと思わせるのはそのあとの行動だった。



「なあ、名前。若しも、若しもさ、俺とお前の間に子供が出来たらさ……そいつも、俺と同じ……化け物なのかなぁ?」泣きそうな声で、呟いたロデオに名前が顔をあげた。声は、マスクによって阻害されくぐもっていたのでそれで泣きそうだと判断したのかもしれない。されども、名前の耳には今にも泣きそうな声として届けられたのだ。名前は考えた。……確率はきっとゼロなんかじゃない。ロデオがそうである以上、遺伝しないとは限らない。名前は普通の人間だけど、もしかしたら自分も素質があるかもしれない。「……わからないよ」今までロデオは自分自身を化け物だといったことはなかったし、それをほのめかしたことも無かった。今の今まで一度もだ。だけど、今は泣きそうな顔で間接的に自分が化け物だといっている。



「だよな、俺も子供だしわかんねぇ、」服もあまり纏わないままの名前に身を摺り寄せて相変わらずの声色で呟いた。「ロデオも人だよ」「馬鹿にしているのか?長く生きられねぇんだぞ、この力だって人とは言い難いじゃねぇか。……だから、俺の生きた証をこの世界に知らしめるんだ」たとえ、それが間違っていたとしても。たとえ、それが世間の人々から非難を受けようともサルが示した道を俺たちは進むだけだと、強い意志は曲がることなくただ、瞳にそれを宿した。「……俺が死ぬときはお前も殺してやる。名前は俺の所有物だからな。他の奴に使われたくねぇし、殺してやる」そういって、首のあたりに手を持って行った。名前はただ、慈悲に満ちた瞳でそれを見つめて頷いた。「……いいよ。殺しても。だって、ロデオは化け物じゃないもの」「馬鹿な女、俺がお前の事どういう風に扱っているかわかっていて、そんな風に言うのかよ。馬鹿な奴。本当に馬鹿で、救えねぇよ、お前」馬鹿だと罵る割には哀れむでもなく、本当に馬鹿にするでもなかった。ロデオが目をキュッと閉じた。




おまけ?

なんだかんだで、多分ロデオ君は夢主を殺せないと思うよ。ロデオ君が力を手放さなかったお話。




木の枝が撓むように、自然に俺の力は弱まっていった。俺はフェーダの残党として生きていた。だが、やがては普通の人間の作った武器に負けるように成っていって、俺自身の体が傷つくようになっていった。能力は死んではいないが、風前の灯といった風にもはや強大な力ではなかった。名前は俺の傍にまだいた。もう、手荒に酷いことをやることもない。いや、出来なくなったともいうべきか。名前に殺されてしまうかもしれないと思ったこともあって、眠れない日々もあった。俺は俺自身がしてきたことが跳ね返ってくるのを恐れていたのだ。……死期が近いのも、俺は何となくわかっていた。俺たちは大人になど成れやしないのだから。同じく力を手放さなかった、一部の連中は当の前に死んでしまった。俺は、長生きした方らしい。もう、俺と同じくらい長く生きているのも一人二人しかいない。もう、残党もいなくなるだろう。……死ぬ前に皆が皆、もっと生きたいと言っていた。だけど、力を今更手放して人間として生きるのが怖いと言って、背中を丸めていた。俺も同じだった。今更人間に成ったところで俺の存在は受け入れられるのだろうか?俺は(名前と同じに成れるのだろうか?俺は化け物なのだろうか?俺は何なんだろうか、)



「名前、怖い」死ぬのが、怖い。最後の理性が最後の言葉を殺してしまったため情けなく震える声が怖いとだけ形を作った。名前の言葉は慈悲に満ちていた。「怖いなら一緒に死んであげようか」「頼むよ、死んでくれよ。俺と一緒に死んでくれよ」怖いよ、怖い怖い怖い。なんで力を手放さなかったんだろう、俺は。もう戻れないのを知っていたから。何処かで俺たちは酷いことをしてきたことを非難されるのを知っていたから。サルたちのように強かになど生きていけないのだと。俺は不器用な(人間)なのだと。名前の首に乱暴にあの時のように、首を絞めるように両の手のひらを押し当てた。「……お前も殺してやる、お前は俺の所有物だ。誰にも、渡さない、俺が……」殺してやる。って力を込めたはずなのに、何故か名前を殺すだけの力も加えられなくてただ穏やかな顔をして受け入れようとしている名前に泣けてきて、



殺せなかった。「ははっ、ははははははっ、……やっぱやめた。覚えておけよ、お前は俺の所有物だ。他の誰の物でもねぇんだ、だからお前は俺の事を考えろ。俺の事を忘れるな」ベッドの上でくるりと体を丸めて、やがて息の根を止めるであろう大きな、空気の手のひらを待ったのだ。「忘れないよ、絶対に。ロデオが大好きだよ。本当はただの子供に戻ってほしかったの」「うるせぇなぁ……、もう手遅れだって言っただろう。……、それに、俺……サルたちのように強かじゃないから、多分、戻れない耐えられない、お前たちに酷いことしてきたから、多分受け入れてもらえない。一人で死にたくねぇや。……でも、お前も殺せない」きっと、多分。この感情が、



俺たちは永遠に子供だった。永遠に大人になど成れなかった。だけど、それでよかった。大人のように小賢しく生きることも無く、愛も知らなかった。でも、名前は信じてもいいかなって、死ぬ間際にちょっとだけ思った。泣くなよ、馬鹿。思い出せよ、俺が憎くないのか?俺、お前に酷いことしたじゃねぇか……。


title カカリア

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