君からの逃走劇



風丸さんのいとこ。ショタコンです。


迂闊だったと思うし、何より浅はかだったと思う。名前さんが、そういう趣味だ……ということは昔から俺が一番よく理解していたはずなのに。何故、何故……虎丸の存在を教えてしまったのか。仲間を売るなんてしたくなどなかったのに。名前さんに近状を話すときに、ぽろっとでてしまったのだ。小学生と聞くと、もう喜んで俺の練習についてきてしまった。勿論、俺はついてこないように再三に注意し、止めた。だが、無駄だった。俺の後をこそこそ尾行していたのだ。ああ後悔してももう、遅い。今はこの状況を何とかしてやることが先決だろう。とはいえ、出来るだろうか。



「名前さん、やめてください。虎丸に手、出したら犯罪ですよ」俺が名前さんの顔色を窺いながらも諌めると、虎丸の髪を撫でていた手をぴたりと止めた。くるりと俺のほうに視線を向けると、悦楽をはらんでいた瞳から明るさが消えた。「なによぉ、とめないでよー。私は可愛い子が大好きなのよ」否、それは間違いだ。可愛い子が好きなのではなく。彼女の場合はショタコンとかそういう類だ。しかも、自覚症状ありで、俺も小学生くらいのときは一郎太可愛い!とかいって愛でられていた。だが、それもつかの間で、俺が中学生に上がってからはそれも減ってしまった。今では殆ど皆無に等しい。つまり、大きくなってしまえば興味が失せるのだ。どうしようもない人だと思うが、この人は俺の親戚で、年上なのだからはっきりと言うことは出来なかった。ただ、他人にこうして危害を加えるときに俺が諌め、苦言するのだ。「しかし、虎丸も嫌がっているかと」



視線を名前さんから、虎丸に移しコンタクトを取ろうとするが虎丸には嫌がっているそぶりはなかった。協力を得ようと、思ったのにこれでは、厳しいかもしれない。「そ、そうなの?虎丸君?」だが、名前さんはそれに気がつくことなく焦ったように、虎丸から距離を離した。やった、何とかなった!と心の中でガッツポーズを取るや否や直ぐに虎丸がゆるく首を振った。「え?い、いえ」……この小学生が!人の努力も知らずに何てことを!



顔を綻ばせた名前さんがまた、虎丸を腕の中に納める。「よかった!そうだ、虎丸君。お姉さんが、お菓子買ってあげようか?」「虎丸を餌付けしないでください」「えええ……いいですよ!そんな、悪いです」虎丸も遠慮しているのか、流石にそれはいいと言った。それが普通の反応だろうな。小学生とはいえ、高学年。お菓子には釣られないだろう。……多分。「そーお?お姉さん、お金あるから平気よ?」肩からさげているバッグをゆらゆら揺らしながら残念そうに、俯いた。「そういえば、名前さんって」虎丸が不思議そうに、首をかしげたのを見て俺は名前さんが言葉を発するよりも先に言葉を紡いだ。



「年は聞くな虎丸。浚われないように気をつけろ」「浚わないわよ。失礼な」大体、連れて行ったら犯罪者じゃないの。と名前さんが呟いた。わかっているんですね。その辺は。「ああ、純粋そうなこの瞳!なんで、大人になると穢れるのかしらね!」意外とませていますよ。小学生って。幻想を壊すようで申し訳ないけれど純粋なのは小学生低学年か、若しくはそれよりも小さい子たちぐらいなものだ。「虎丸、何かいってやってくれ。出来れば、名前さんの幻想を壊すようなことを!」「え……?あ、はい」



最早空気のように調和し、名前さんの腕の中にいることになんら違和感を覚えなくなってしまった虎丸が口を開いた。「え、っと?……ピー(自主規制)とかでいいんですかね?風丸先輩」「いやああっ!!何でそんな単語知っているのよ!」グッジョブ、虎丸。よくやった。名前さんの幻想は今ので思い切り壊れたらしく、自身の髪の毛を弱弱しく掴み取り乱している。なんだかぶつぶつうわごとのようにありえない、ありあえない。と繰り返し呟いているようだった。「え、拾ったエロほ……いえ、この間、豪炎寺さんが何か言っていました!」



今の前文が多分本当のことなんだろう。豪炎寺に擦り付けるとは、なんて小学生だ。仮にも尊敬していたのではなかったのか……?絶対今言った、放送禁止用語の意味も理解していると思うんだが。「……豪炎、寺?あの男ね。許せないわ。純粋な子供を汚しやがって」名前さんはその前文が聞こえていなかったのか、鬼の形相で今この場にいない豪炎寺に呪いの言葉を呟き始めた。多分、小さい子がみたら泣くレベル。俺ももっと小さかったら、悲鳴を上げていたと思う。残念だけど、今はそんなに小さくないから悲鳴をあげたりなどはしない。今どきの小学生って意外とませているんだな……。



「そうよ。大体、虎丸君がそんな汚い単語知るはずないものね」名前さんの顔から怒りが消えうせた。多分、豪炎寺がこの場に居たら血祭りにあげられていたと思う。居なくてよかった、本当に。仲間が血祭りにあげられる現場をとめられなかったら、辛すぎるぞ……。「明日も来るからねっ!虎丸君のためにっ!あと、豪炎寺とかいうやつにちょっと用事があるから」わしゃわしゃ髪の毛を撫で回しながら口元をだらしなく緩めている。最後の台詞を聞いた俺は、豪炎寺を助けなくてはいけなくなったと悟った。凄くトーンが低く高揚していたように感じる。恐ろしい殺気だ。ねぇ何で、俺ってこんなに損な役割なの?もう、ずる休みしようかな……。


title リコリスの花束を

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