シスコンとは彼のことを言う



修学旅行で残念な平良さん兄妹。シスコン。


「いやだっ!俺はいかないぞ、炎っ!離せっ!」先ほどから平良の奴が駄々をこねてそこから一歩も動こうとしない。校門の近くにある、標識に両手足をしがみつかせて離れない。俺はそんな平良を必死に引き剥がそうとしている。誰も手伝っちゃくれない。皆バスの外からその光景を呑気に眺めるだけ。苦労するのはいつも、俺だ。歩星とか俺より力ありそうなんだから、あいつがやってくれればいいのに。あいつなら一発で平良を引き剥がせるだろうに……なんであいつより線が細い俺を選抜するんだ。可笑しいだろ。人選ミスだ。こいつは妹が大好きだからなぁ……。本当死んでくれシスコン。お前のせいで、バスが出発できないことに気がつけ!平良のせいで、皆げんなりとしていた。巻き込まれた俺たちは溜まったものじゃない。先生も諦めているのか、タバコなんか吸って景色を眺めている。こいつのシスコンぶりは校内一だ。



俺は言いたい色々な、恨み言と涙を飲み込みながら平良の服を引っ張った。「ほらっ!行くよ?妹さんこっち見ているよ?恥ずかしくないの?」俺がそういって妹さんのほうを見ると、平良がハッとしたように頭をあげ、妹さんのほうに視線を向けた。妹さんが申し訳なさそうに俺に、頭を下げた。妹さんはまるで悪くないのに。俺も釣られて、妹さんに会釈をした。平良は妹さんの姿を確認すると顔を羞恥の朱色に染めあげた。恥ずかしいなら最初から粘るな。「あっ、いや……これは、その名前、違うんだ……。兄ちゃんはお前が……俺がいなくなると寂しいと思って」妹さんがくすくすと口に手を当てて、笑っている。これじゃ兄妹っていうより、姉弟って感じだな。妹さんのほうはそんな平良を、酷く穏やかな瞳で見つめていた。「貞兄ぃ、お土産よろしくって、お母さんもお父さんも言っていたよ!楽しんできてね。これ、お母さんが兄さんに渡せって。多分買ってきて欲しいものだと思うけど」



そう、平良の傍まで寄ってきて平良の手を握って小さなメモを手渡した。妹さんが書いたのか整った平良の字とは違う綺麗な字が並んでいた。随分と達筆だ……俺よりうまいかも。しかしよく出来た妹さんだ。平良とは大違い。本当に、こいつと血が繋がっているのか疑わしいね。でも、やっぱり兄妹なんだろうね容姿は少し平良に似ている。太陽に透ける茶色い髪が平良と同じ色だ。



でもまぁ、今回のことで平良が妹さん大好きな理由がよーくわかった気がする。平良の妹さんは可愛いし、何より健気で賢いし。俺も妹がいたらこんなんだったのかな……と少し思った。しかし、残念なことに俺には女兄弟はいない。あーあ、俺も女兄弟ほしかった。平良の服が少しだけ伸びてしまったのに気づき手を離した。離した途端に、妹さんに勢いよく飛びついた。妹さんはそれに戸惑いながらも受け止めた。麗しい兄弟愛だが、困るのは俺らだ。もう何十分タイムロスしていると思うんだ?先生が何本目か忘れたタバコを潰した。ごめんなさい、先生。俺のせいじゃないけど。「もう、兄さん、炎先輩困っているじゃない。早く行かないと……沖縄行くんでしょ?」「やだ。名前寂しいだろう?俺、沖縄行かない……。あと、あいつが勘違いするから、名前は呼ぶな」「馬鹿!寂しいのはお前だろ!って、なんで?!俺の名前呼ぶのも駄目なの?!勘違いって……」



俺が鋭く突っ込むと平良がつりあがった瞳を、俺に向けた。最後のほうはもう、なんか切ないというかえぐいというか、残酷というか……確かに可愛いけど、平良の妹に手を出したら恐ろしいことになりそうだなと思うのは多分俺の気のせいではないと思う。血祭りにあげられるだろう。というか、俺そんな一々勘違いなんか起こしていないよ!まるで日常茶飯事みたいに言いやがって。そんなに女の子に惚れたりしていないって。優しくされたら勘違いするけどさ……。「当たり前だろ!こんな可愛い妹を残して沖縄なんかいけるかっ!」


「沖縄はいいところだよ、兄さん。私は大丈夫だから、ね?兄さんがいないと寂しいけど私兄さんのお土産話とお土産、楽しみにしているからっ」そういって平良の体を離した。いい妹さんだ。それとは対照的に寂しそうに眉を下げていた平良はいつもと違って情けなかった。今にも泣き出してしまいそうな、そんな感じ。妹大好きだなぁ、本当。「……名前〜っ。うぅ、わかった。お土産沢山買ってくるからな……!」



平良がしぶしぶ納得したのか、妹さんから離れた。そして俺と一緒にバスに乗り込んだ。平良が沢山っていうと大げさなくらい沢山、多分お小遣いギリギリまで妹さんに買うんだろうな……と頭痛がしてきた。そして、その荷物を俺が半分くらい持つ、と。友達使いが荒いんだから……。バスの窓からぶんぶんと勢いよく妹さんに手を振っている。妹さんが淡い微笑を浮かべて小さく手を振って見送っていた。バスが低く唸り声をあげて、動き出した。やば、酔い止めを飲まないと……。しかし、平良の奴、その情熱をサッカーにでもぶつけてくれないだろうか。彼女でも出来れば少しは妹離れできるだろうか……この先が俺は少しだけ心配になった。



不幸なことに平良と隣の俺は酔い止めを飲んでいる最中に平良に話しかけられた。隣の相手は、友達同士で座れるのだけど。俺が平良を連れ戻すから必然的に隣なわけだ。平良は随分と真剣な面持ちだった。平良が真剣なときは大抵妹さん絡みだということを知っていた俺は先ほどのせいもあり疲れていたため聞きたくなかったが一応、聞いてやる。「なぁなぁ、炎。名前へのお土産、何万くらい買えばいいかな?」「万単位?!ちゃんと後輩にもお土産買わないと駄目じゃないか……!買わないとアフロディに小突かれるぞ!」


予感は恐ろしく的中しそうだった。酔い止めを噴出しかけた。バスの中で、俺は嘆いた。誰か平良と席変わって……。歩星に助けてくれ……と視線を送ったらあからさまに目を逸らされた。あいつは友達を助けてやろうとか思わないのだろうか。薄情な奴。海神が聞いて呆れる!修学旅行は、あまり楽しめない気がする。主に妹さんのお土産選びに手伝わされて。気というか、最早これは確信に近いものがあった。平良の奴は後輩に土産を買う様子もない。先輩がこんなんでいいのだろうか……いや、駄目だよね。俺がかわりに買っていってやろう。なんで俺がこんなに苦労しなきゃいけないのだろう……。バスの窓から景色が流れてゆく。


ああ、沖縄の海は遠いよ………………。


シスコンとは彼のことを言う。



〜後日談〜


「名前〜っ!土産沢山買ってきたぞ!」どっさりと両手一杯に塞がっていたそれをフローリングの床におろした。いったいいくら使ってきたのだろうか……と心配になった。兄さんには楽しんできてほしかったのに、私にこんなにお土産かってきちゃって……。炎先輩がげっそりした様子で一緒にそれを置いた。手伝わせたということは明白だった。申し訳なさで一杯だった。原因の半分くらいは私なのだから。「有難う兄さん。炎先輩すみません……兄が」「名前ちゃん、いいんだよ……。ほら、体力もつくし……」そうは言ってくれているが、だいぶ顔色が悪い。褐色の肌が少し青ざめていた。なんだか、修学旅行前よりやせたようにも見える。多分、兄さんのせいだ。私に気を使ってくれているのが余計に痛々しい。



「……兄さん私のお土産は嬉しいけど、部活の後輩のお土産と兄さんのぶんは?」そう私が恐る恐る尋ねると兄さんは、口元を動かした。買ってくる気なんて最初からなかったんだろうけど……。「あー。忘れていたな。まぁ、いいだろう?別にほしいもの無いしな」「大丈夫だよ、名前ちゃん。俺が後輩たちへのお土産は買っておいた……」炎先輩が紙袋を私に見せてくれた。なんてことだ、兄さんは炎先輩に何処まで迷惑をかければ気が済むのだろう。私があわてて、頭を下げると炎先輩は、苦笑して「大丈夫」といってくれた。ああ、もう兄さん。万単位も使ってくる兄さんには正直驚いたけど……そろそろ、兄さんは妹離れをしてほしいと妹は切に願っています。学校で兄さんが張り付いているせいで友達がからかってきます。あと、兄さんのせいで恋人の一人も出来ません……。兄さん気づいて。

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