死に際のビビット



病んでいるメンヘラ夢主と優しい喜多海救いは多分あります。


名前は笑った。僕を馬鹿だと罵って、笑った。純粋に笑っているわけではなくて先ほどとは違う乾いた笑みだった。水分を失いピシピシひび割れて、粉々に砕け散る。必死に押さえつけて、それを保ち続けている。それはいつ崩壊しても不思議ではない。「何で可笑しいの?別に誰かを好きになることって変じゃないと思うべ」僕が精一杯の反論を述べると、名前の顔からあの乾いた、笑顔が消え失せた。砕け散ったそれらが、元に戻ろうと必死になっているのに、顔はぴくぴくと動くだけで作られることはなかった。



「可笑しいよ。とっても可笑しい」「何処が?僕が名前を好きになっちゃいけないんだべか?」僕は名前が好きなんだよ。「わからないんだ。喜多海は何もわからないからそんなこと言えるんだ」名前はまた笑う。今度は僕を笑っているわけじゃない、そう直感した。自分を笑っている。自嘲だ。そう、僕には感じられた。勿論本当のところは名前にしかわからない。これはただの僕のくだらない推測にしか過ぎない。無理やり再生されたそれは、やはり同じものを形作ることは不可能だった。



「ははは!喜多海は馬鹿だなぁ」いい加減僕を罵倒するのはやめて欲しいべ。繰り返し繰り返し反響する。結局明確な、理由も答えられないのに、ずっと馬鹿だの言われるのは流石の僕も堪える。僕は微動だにせず、ただ立ち竦んでいた。地面に足がくっついているのか、動かない。「ははは、は……。何も知らない喜多海、君は私の何を知っているのかな?」僕は名前のことを、何処まで?僕は名前をどこまで知っているんだろう。確かに、断片的な情報しか知らないかもしれない。名前にとって僕は、上辺だけしか見えていないように見えるのかもしれない。だけど、僕は知っている。名前が寂しそうな表情をたまに浮かべていることを。友人との談笑中、どこか遠くを見つめるような寂しそうな瞳を。



「何も知らないくせに、やめてよ。迷惑、あはは」そうだね、きっと殆ど何も知らないだろうね。名前はだって、僕に見せてくれないじゃないか。本当のことを。「……じゃぁ、何でそんなに寂しそうなんだべか?」「は?寂しそう?わからない、わからないなぁ」「僕は名前を見ていたから知っているべ」此処まで言うと名前は笑うのをやめて、僕の言葉に真剣に耳を傾けていた。さっきまでの茶化したような雰囲気は見受けられない。表情も無理やり何かを作るのをやめたようだった。



「ふぅーん。失望するよ、きっと、嫌になるよ。それでも?」無表情といってもいい、名前が僕を覗き込んでいた。どうして、辛そうなんだろう。僕じゃ、救えないのかな。救えるのならば、救ってあげたい。もう寂しい顔をしてほしくはない。笑顔を見せて欲しい、きっと君の笑顔は太陽のそれよりも煌々と美しく僕を照らすだろう。「うん、そのときになってみないとわからないべさ」ほら、と名前に手を精一杯さし伸ばした。名前が僕の手に戸惑っていたが僕の思いが通じたのかすぐに今までとは違う、心の底からの笑みを見せて僕の手を取った。


title カカリア

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