花冠



「ねぇねぇ、セインってさ本当に男?」そんなことを急に言われるものだから、口に含んでいた飲み物をぶっ、とリバースしてしまいそうになった。私が男に見えない、とでも言いたいのか?名前は……そうか、一度わからせてやる必要があるらしい。天使に有るまじき、邪な考えが横切ったが名前は相変わらず天使の私よりも純粋で穢れのない聖女のような瞳で私に聞いてくる。ああ、私は汚れたものだ。「選手情報には男って書いてあったけど……そもそも天使とか悪魔って人じゃないけど性別あるの?」



名前がよくわからない、と肩をすくめた。人とは違い、ただ人の形をしているだけに過ぎない。人の器に、私たちは存在する。魂の入れ物は何だっていいのだ。ただ、こうあるのがとても便利なだけだ。あの薄汚い魔界の民ですら、人の形をしている。サッカーをするには最適だ。そういえば、一部の人間は天使や悪魔には性別がないとか……両性具有だ。とかそんなことを言う輩が居たような。曖昧な記憶を辿る。馬鹿なことを!と鼻で短く、笑う。「残念だが、男だ。性別はある」「へぇー。そっか〜。だよね、骨格が男だもんね。ギュエールちゃんが男だといわれた日には私卒倒しちゃう。新ジャンルを作らなきゃね。ああ……でも私、ギュエールちゃんが好きよ」至極真面目な顔でうんうんと頷く。私が女に見えたとか言ったら絶句していたと思う。暫く立ち直れなかったとも思う。ああ、よかった……男には見えるのか。そして、何故にギュエールを贔屓する。此処まで名前の寵愛を得られるギュエールが羨ましい。寵愛を得られるのは私で、あるべきなのだ。こうも恥ずかしげもなく言えることにはある意味感心させられる。私ですら、そのような言葉を口にするのは躊躇われるのだ。そういう言葉は言えば言うほど価値をなくし、意味をなくす。そういうものだと思っている。名前は私を堅物、といったが。ギュエールは名前に対して優しいから惑わされているのだろう。悪魔も怯むようなあの恐ろしい怒りを露にした現場でも見せてやらねばなるまい。露呈してしまえば名前の意見もきっと少しは変わるだろう。



「セインは案外、女でもやっていけそうな気がするけど……」至近距離にあった名前が随分と挑発的な笑みを浮かべる、ほほぉ……?私を煽っているのか?幼稚な煽り方だ。ひとつに編まれた、髪の毛を手にとって弱く引いた。緩やかにそれが手から滑り落ちてゆく。「……私が、か?」「そう。髪の毛を解けば素敵なウェーブがかかるし」ほら、と私の了承もなしに解く。ふわふわにウェーブのかかったそれに顔を思い切り顰めた。普段一つに束ねているせいで、解いてしまえば面倒なことになるのに、と。「これで、花冠でも乗っければギュエールもびっくりの女神様よ」ぶちぶちと、草花を千切りながら編みこんでゆく。花は簡単に名前の手によって手折られる。女神……か。悪く言っているわけではないと思うのだが、柄にもない。暫く真剣に何かを作っているかと、思えば小さな花冠が名前の手で作られており、それを私の頭の天辺に乗せた。色とりどりの花が、私の頭の上に咲き乱れた。甘い、花の蜜の香りがする。人工的ではない、花々の香りを近くで感じる。「ほらね。鏡でその姿見てきたら?中々傑作よ」名前が笑って私の背中を軽く押した。馬鹿、こんな姿で歩けるか!他の奴らに見られたら何を言われるかわかったものじゃない。頭にのせられた花冠を掴んで解けた髪のまま、名前を横抱きにし花冠を名前に乗せた。



「セイン〜!降ろして!からかって悪かったってば!」名前が慌てて私の腕の中から脱出を試みようとする。あんまり暴れると落とすぞ?というと大人しくなった。落とされるのは嫌だと、私の服をギュ、と掴んだ。悪戯をして叱られてしまうのを恐れているような子供の顔をしていた。「何を今更。花は私ではなく名前のほうが似合うぞ」髪の毛をすくって、おでこにキスをすると真っ赤になった名前の顔が目に入った。やはり、花などは私なんかには似合わないな。花の香りと草の匂いを風が優しく運んだ。


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