終わらない狂想曲



前回より酷くなっているマインドコントロール、邪悪すぎるベータ


ベータ様を愛している、だけども近頃忘れて居る事が多いような気がして、頭を悩ませる事が多くなってきた。自分の都合のいい事しか覚えていられない頭。レイザちゃんは憐憫するように、はたまた敵でも見るような目つきで睥睨してくることが多くなった。私がベータ様のいない時を狙ってどうしてそんな目で睨むのと聞けば「お前がリーダーそのものの存在を忘れたからだ。前は、どうでもよくなった、それだけだったのに。存在そのものを忘れるだなんて。見損なった。あの女のせいだというのはわかるが、この感情が抑えられないんだ、もう何処かへ行ってくれ」拒絶するように踵を返し、私に背を向けた。何処かその背中が小さく見えた。ずきずき頭がはちきれんばかりに痛むのが気にかかった。私は、何か大事な事を忘れている……?



ある時エイナム君とレイザちゃんが、会話しているのが耳に入った。「アルファ様を助け…………名前も、……あいつのせいだ……アルファ、さま、……わすれている」キャプテンとはベータ様の事だろうかとそのまま耳をそばだてていたところレイザちゃんの口から途切れ途切れの中から「アルファ様」という単語を聞いた。途端に激しい胸の疼痛と、酷い眩暈に襲われた。アルファ、私は聞いたことがあった。だけど、詳しい事……細部を思い出そうとすればするほどそれらは酷くなって仕舞には過呼吸に陥るように息をするのもままならなくなってしまった。その時「ムゲン牢獄」という単語も手に入れた。元々存在は知っていたがそこに足を踏み入れたことはない、恐らくはアルファと言う人物は前のキャプテンであり、今はムゲン牢獄にいるのだと想像にたやすかった。



アルファ、アルファアルファアルファ……。懐かしくて聞くだけで胸が痛んだ。途方に暮れてしまいそうな程に、遠い。名前を聞いただけというのにその人物に逢いたくなった。その前にベータ様に尋ねてみた。「前のリーダーって誰だったんですか?」ベータ様は途端に怖い顔を作って、冷たい瞳で射抜いた。「いませんよ、私がずーっとリーダーでした」それは初めての回答の拒絶、だった。私はあの時聞いた人名を呟いた。「アルファ……」「!」ベータ様が手を突き出して私の肩を強く握りしめた。痛みに呻きながら上眼遣いでベータ様を見上げるとベータ様が悔しそうな顔で喋った。「二度とそいつの名を口にするんじゃねぇ!今は俺が一番だろうっ!何故あいつの名前がまだ出てくるんだ!」可笑しい可笑しい!と人格がチェンジした様に激しく咆哮した。やがて私が怯えているのを察知して普段のベータ様(といってもまだ感情は荒れたままだったが)に戻った。肩で息をしながら調子を整える。「……貴女が、名前があまりにも辛そうで、……辛い辛いと泣くから、忘れさせてあげたのです。そいつの跡形もなく」



その台詞に私は“マインドコントロール”の可能性を考えた。もしも、ベータ様に抑圧された感情や殺された情報があるのならばそれしかない。私は思い出したい、この疼痛の意味も頭痛も。「ベータ様もしも、マインドコントロールしているのならば、マインドコントロールを解いてください、思い出したいのです」前のリーダーが握っている物は何だろう、私の心臓かはたまた気持ちか。普通のメンバーにはあのボールもマインドコントロールの権利も持っていないので自力で解くことは不可能だ。だから頼み込んだのに答えは残酷で「嫌です」そう、きっぱり答えられて挙句に釘を刺された。「もう二度と奴の話をしないでください、私たちは愛し合っている。それだけでいいじゃないですか。いいですね?」肩から手を退けて、作られた微笑を浮かべて立ち退いた。後で、姿見で確認した所くっきりとベータ様の小さな掌が赤く残っていた。



愛する人から強く拒絶され、釘を刺された。だけども、私は……ムゲン牢獄に足が勝手に向かっていた。あんなに強く言われていたのにも関わらずだ。私は兎に角欠けたピースを求めるようにアルファと言う人に逢いたかった。ムゲン牢獄へと続く道をただ、がむしゃらに走っていたら後ろから、腕を脱臼しそうな程に掴まれて後ろに重心が傾いた。「絶対に、名前がムゲン牢獄へ行くと思っていました。あの野郎!いつまでもいつまでも名前の心に居やがって!!何故だ!畜生!俺の何が負けているっていうんだ!実力も何もかも俺の方が上じゃねぇか!」獣が咆哮するように、目を見開き叫んだ。八つ当たりのようにぎりぎりと爪を立てる。あの攻撃的な面が表れている。「い、痛い、」私の呻きにハッとなったように気が付いた。「そうか、まだ、思い出しちゃいねぇのか。アルファっていうのは手前の恋人だぜ。だから気に成って仕方ねぇんだ。消しても消しても消しても強い思いっていうのは消しきれねぇんだ。所詮、弱っているところに付け込んだだけだからなぁ」人が変わったようにべらべらと話し始めてくれた。どうやら、私には恋人が居たらしい。それが、アルファ……。(だから、求めてやまないのだ、心が彼を欲している逢いたくてたまらない、)「ひ、酷い……どうして……」



「悲しそうに、辛い辛い泣くからだろう。だから、俺が消してやったんだ。もう苦しまない様に……っていうのは、私の都合の半分。本当は気持ちごと奪いたかったからです。……ふふ、さあ、また忘れましょうね。私たちの未来の為に。貴女が思い出すたびに私は、それを消してあげちゃいます。何度でも。そう、何度でも繰り返します」途中で落ち着いたように口調を元に戻してそういって、片手に抱えていたボールをポンと手で押し付けた。また声が聞こえた、どこかで聞いたことがあるあの人間味の無い声。「マインドコントロールモード」まだ、見ぬ恋人とはどんな人だったんだろうか。邪気に歪んだベータ様の顔が見えた。「……さあ、帰りましょう。名前、愛していますよ」「はい」もうどうしてこんな場所に居るのか、目の前の恋人が何故嬉しそうなのかもわからなかった。ただ、虚しい喪失感に襲われていること以外は何も。


title Chien11

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