僕のかみさまを殺しました



僕の神様が死にました。それは雷門に負けた日。御影の敗北と共に灰塵となり息の根を止められました。他の部員も何処か可笑しくなったりしたけど、僕のような酷い後遺症は残っていないそうだ。どうやら僕は重症らしい。名前曰くそれは、洗脳が完璧にとけた証なんだよというのだけど、幻や偽りでも僕にとっての神様は確かに存在していたのだ。だから僕の神様が消滅した今、僕はどうしたらいいのかわからず狼狽するばかりだった。僕は今まで神様のいう事にちゃんと従ってきた、だから僕一人ではどうやってこれからをやっていけばいいのかもうわからない。何年も神様と一緒だったわけじゃないけど、神様は僕に対して正しい解答を導き出し、常に間違いを犯さなかったし道も踏み外さなかった。何より神様は威厳にあふれていて、それが正しい事だという説得力を常に持ち合わせていた。だからこそ、僕は崇拝し傅いた。それが今はどうだ?洗脳とかわけのわからないことを言われて、神様は跡形もなく居なくなって僕を置いて行ってしまった。探しても何処にもいない、呼びかけても反応は無い。何処へ行けばいいのか、何をしたらいいのか、何をしゃべればいいのか、どう呼吸すべきなのか、何も教えて(啓示して)くれやしない。



「神様」心の中で呟いて呼びかけても相変わらず空洞のように響き跳ね返るだけで返事は返ってこなかった。「神様神様かみさま」何度も呼びかけた。一日に何度も。だけど、やっぱり返事は無かった。僕は余程哀れだったのだろう。名前がそんな僕を見かねて話しかけてきた。「神様はいなかったんだよ、最初から」陶器のような白い肌を見せつけて憐れんだ。神様がいなかったとしたら僕が傅き、畏敬してきた神様は誰だったんだろう。と泣きたくなった(虚像か偶像か、邪神か)。僕の過ごしてきたひびが幻覚や妄想のような類の物だとしたら僕はとんだ馬鹿だ。僕はもう一人では何も出来ない、気づいてしまったのだ。僕って無力なんだって。考えたくないけれど事実なのだ。



僕一人で出来ることはたかが知れている、サッカーも仲間と連携を取ってやるものだし、勉強だって一人ですべてを理解しきれない、僕は何も出来ない糸で操られていただけの自我を持っていなかったマリオネットだったんだ。ああ、気づかなければよかったと泣きそうになりながら僕は名前に言った。事態はあまりにも逼迫していたのだ。だから、すがる思いだった。「僕の神様に成ってよ、君が僕の神様だから、お願い」助けて助けて助けて。僕に指示を出して、僕は一人じゃ生きていけない、何も出来ない。声にならない助けを呼ぶ声を聞きとったのか名前がすんなりと頷いた。「いいよ。その代り啓も私の神様にならなきゃダメだよ」



「啓は私の神様、私は啓の神様。ほら、平等でしょ」「そんなの変だよ。神様」神様は唯一なのだ。だけどそれではだめだとゆるゆると首を横に降り出したので僕は慌ててじゃあ、それでいいから!と叫んだ。珍しく声を荒げた僕を凝視して歯を見せた、次の神様は女の子。僕と同じくらいの年の女の子、だけどね、女神様は僕に指示を与えてくれる。「取り敢えず抱きしめてほしいなぁ。お互いが神様に成った記念に」鳥が翼を広げるように大きく手を開いて、僕を受け入れようとしたので僕はそれに飛びついて錠を掛けるように腕を絞めた。「僕の神様」もうどこにもいかないで。



title 月にユダ

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