ファンファーレをあげましょう



→前:歪なピリオド

僕の好きな女の子はベータの友達で、ベータの事が大好きだった。だから、僕がいくら彼女を望み、その腕に抱きたくても心までをも手に入れることはできなかった。最初の内はベータが居なくなったことで深く傷ついた名前の心を癒し、その隙間に潜り込めるのではと思って優しくした。それこそ、自分じゃない誰かが僕の口を使って、言っているのではないだろうかと思えるような台詞ばかりが出て来た。勿論自分の意思で言っていることだったし、名前がいつまでも悲しんでいるのは耐えられないと思っていた。だけども、やはりそこには邪な物が蟠っていた。だから、最終的にはその優しい僕は決壊して彼女を傷つけた。無理矢理に奪った唇がやわらかかったのを覚えている。



僕は権力を使って、彼女を隣に置き続けた。名前を愛していたからだ。でも、名前の笑顔を僕は取り戻すことが出来なかった。暗い室内で考える、今日も一日辛かった。あんなに、あんなにも望んでいた名前の傍を僅かな時間を過ごしただけで追われてしまっただなんて。考えるのは名前の事ばかりだった。僕は名前の幸せを望めなかった。あの日言った言葉が僕にブーメランとなって突き刺さった。「嘘ばっかりだ、」名前を慰める男が現れて、そいつに取られたらとか想像するだけでギシギシと心が軋んで、悲鳴を上げる。ベータもこんな気分だったのだろうか?ベータとはムゲン牢獄内で未だに逢っていない。此処から出られるめども立っていない。酷く惨めだ、「名前」名前を呟いてボロボロの粗末な天井を見上げた。パチリと急に辺りが暗くなった。どうやら消灯の時間のようだった。名前は無事なんだろうか、



ベータちゃんに続いてガンマ様も消えてしまった。またしても、ムゲン牢獄送りを免れた私だけがポツリと残された。ザナーク様の気まぐれだろうか。ベータちゃんの時同様に私は悲しいという気持ちを抱いていた。優しかった頃のガンマ様が今もなお私の中で息づいているからだ。私は嫌だった。ガンマ様の寵愛を得るごとにベータちゃんが居なくなった悲しみが薄れてしまうのではないかと思ったことを。心を修復するように、私の傍にいたガンマ様を私は。「ガンマ様、」目頭が熱くなる、どうして、私の周りからは大切な人が次々に奪われていくのだろう。



ガンマ様がいなくなって初めて、私はガンマ様の存在の大きさに気づかされたのだ。豹変を見せたとはいえ、あんなにも直向きな愛情を受けたことは無かった。



名前との再会は叶わないだろうと思っていたのに、このムゲン牢獄内で僕たちは再会を果たした。名前の話を聞けばどうやら、ザナークが消えて代わりに遂にパーフェクト・カスケイドが雷門を討つことに成ったらしい。それによって、名前はムゲン牢獄へ送還されたようだった。酷く疲労困憊しているようだったが、僕に向けて初めて笑顔を向けてくれた。その笑顔は太陽の日差しを浴びて咲く可憐な花のように思えたし、実際に僕にとってはそれに匹敵した。「……ガンマ様、」「ベータには逢ったのかい?」なのに僕はベータに嫉妬してなのか、そんな言葉を投げかけてしまった。瞬間、顔が強張ったが僕が何もしてこないのに緊張の糸を解いて、答えた。「まだです、ベータちゃんにも逢いたいのですけど、」やはりベータの事を気にかけているようで顔を曇らせた。ベータの安否が気に成って仕方ないと言ったところだった。「僕じゃ駄目なのかい」この劣悪な環境下でこうして二人無事に再会できたことは何よりも、喜ばしい事だ。「僕は、君に逢えてよかったよ。僕と行動を共にしようよ。僕が守ってあげる」「……ガンマ様」名前の心に僕の言葉は少しでも届いたかな。



名前がハラリと涙をこぼした。僕はそれがどうしようもなく辛くて、あの時のように、涙を掬って見せたけど名前は抵抗を見せなかった。それどころか僕に身を寄せて、言った。「はい、ガンマ様。貴方が無事で本当によかった、」僕はこの湿気った空気を喜んだ。もう僕は君のリーダーなんかじゃないけれども(職権乱用も、権力も失ってしまったけれど)、それでも君の傍に居たいんだ。僕がこの身を挺して、君の事を守ってあげるからね、名前。愛しているよ。

title Chien11

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