ティーグルの瞳



綺麗な双眸をパチクリと瞬かせた、夏樹は神妙な顔つきで「変なことを言うんだな」と呟いた。自分の言った言葉を反復させるように、もう一度口にすれば「当たり前だ」とさも当然だと言わんばかりに、返ってくる。澄んだガラス玉のような色の違う瞳を見つめる。なんで色が違うの?カラコン?と尋ねたこともあったけれど、夏樹はあまりいい顔をしなかった。それでも、私は夏樹の瞳が特別に好きだと言えば笑ってくれた。純粋な疑問は相手を困らせる原因にしかなりえないのだ。人は自分たちと違うものを迫害する。つまりはそういうことだと理解するのには幾分時間を要してしまった。ただ、容姿が端麗な彼がいじめなどと言う陰湿な行為を行われたことはなかったそうだが、決まりきった質問にはうんざりしているようだった。遠巻きに高価で綺麗なお人形さんを見ているようなそんな感じだったそうだ。因みに瞳は彼曰く、カラコンでもなんでもないそうだ。「……でも、私は夏樹の瞳が好きだな」



強い意志を持って、爛々と輝きを放つ何もかもを屈服させるような強さを兼ね揃えた美しい瞳が私を捕えて離さないのだ。それはひどく魅惑的だと思う。見つめていれば度々、渇きを防ぐように瞬く。「ああ、そう」悪い気はしないのだろうか。ただ、すましたような顔をしているが、少しだけ面映ゆい様子を浮かべる。僅かな表情の変化も気づけるほど私たちは近くにいる。「夏樹の見る世界は、私たちと違って綺麗に見えているように思う」何も変わらない、私たちは同じ人と言うカテゴリーに居て同じ年なのだから。それなのに、ただ少し変わった夏樹の世界が気になって仕方がなかった。私もあんな綺麗な瞳を持って生まれていれば、世界は違ったのだろうか。見るもの見る物が全て美しく思えて慈しむ心をはぐくめたのだろうか?



「前にも同じことを言ったけれど、見える世界は全て同じだ。名前と同じものを見て、同じように感動して、同じ世界を生きている」先ほどの無意味な、問答にもう一度答えて見せた。でもね、私には同じには思えない。彼の方が高貴な存在に思えてならないのだ。同じ土俵の人間なのだろうか、果たして同じなのだろうか。「そうかなぁ、」「そうだよ」間を開けずに、頷く。何処からそのような自信が沸いて出てくるのか、いつも夏樹は私なんかよりも自信や気品にあふれている。「植物を見て綺麗だなって思うし、犬や猫を見て可愛いと思うし撫でてみたいと思う。それから、これが一番大事な事。名前を見て愛しいと思う。名前と同じだ、そうだろ?」唇に触れた指先、細められた瞳から色が消え失せた。ああ、私と同じだ。きっと、そう。


title Chien11

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