それは愛のようだった



クロノストーンになってアクセサリーに成りたかったという捏造の産物。


石のような固い、されども太陽の光に翳せばキラキラオレンジ色に光るそれがアルファのお気に入りだった。常に大事な物を扱うように、扱いアクセサリーのように首にかけていた。その中には愛しい人が封印されていた。話しかければ最初の内はか細く元に戻して、と言っていたがやがては物言わぬ石になった。それでも、アルファは良かった。最初はクロノストーンではなく、きちんと封印するつもりだったのだが、こうして自分の物だけに成ったクロノストーンは特別なアクセサリーのようでもあった。「……ノー、元に戻す気はない。封印しきれなかったのが残念なくらいだ」ぼそりと呟くようにクロノストーンに話しかける。



最初はただの一人ごとかと思ったが、名前が久々に喋りかけていたのだ。意地になって黙っていたのだがそれすらも無駄だと気が付いたようで、凄くか細く今にも途切れてしまいそうな声で頻りに「だして、だして」と訴えかけている。初めはアルファに世間話や同情を寄せてもらえるような会話をしていたが次第に躍起になってそれしか言わなくなってしまった。「出して、アルファ、どうして?私が何かしたの?元に戻してアルファ」「ノー。もう耐えきれないんだ。お前が他の男と会話するのも、私だけが特別なはずなのに」そうだ、強い独占欲だった。最初は他の男と話をするのも注意するだけであったが次第に他の男が疎ましく思い始めて、最終的には話しに応じる名前がいけないんだと極端な答えに辿りついたのだ。そして、「お前を封印する」となったのだ。



「いつでもいられるというのは良い事だな」「なんで、アルファ……なんで、」泣き声のような鼻にかかった声だった。泣くことも叫ぶ事も出来ない名前はただ、アルファの胸の上でキラキラ輝いている。任務遂行中に昔の世界の街中を歩くと知らない、人に声を掛けられた。まだ、年若い女で二十代ぐらいの女性だった。「綺麗な宝石ね、なんていう宝石?」「ノー。宝石ではない」説明しても一般人にはわからないだろうと思いそれきり黙っていたら興味津々の女性が笑った。「何処で売っていたの?綺麗ね」「売ってはいない。これは私の愛しい人の結晶だ」



意味を理解しきれない女性が目を円らかにしてしばたたかせた。やがてロマンチストなのねと笑って、別れを告げた。まだ名前はか細い声でアルファを呼んでいる。「アルファ、アルファ、」「……そうして、私の事だけを考えていればよかったのだ」時たま、名前の姿が恋しくなってしまう。だが、元に戻す気はさらさらに無かった。名前は常に自分の傍に居て、自分だけのものなのだから。そう思えば心は満たされた。だが全てではなかった。アルファは自分の心に対して嘯いた。「名前、お前は私の物なのだ」「アルファ、……」今日も諦めたのだろう、一度最後に彼の名前を呼んだきり、また物言わぬ輝く石に戻ってしまった。アルファもまたこれ以上話しかけても無駄だと知り話しかけるのをやめた。



愛しげにクロノストーンを磨いて、一度愛の言葉を囁いた。石は喋らなかった。風に削られていくように名前の心が死んでゆくことになど気づかぬふりをして。恋人は永遠に美しい石のままなのだろうか。「愛している」一日に一度言われる愛の言葉は、名前にはもうわからなかった。愛と言う物はこのように歪んでいる物なのか。


title リコリスの花束を

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