微熱で溶けてしまうほどの



尖った耳を見ていると本当に同じ人類なのかと思ってしまう(それは昔の人が想像した架空の生き物、エルフや妖精の耳なんかを思わせる。まさか本当に妖精……それとも、突然変異か、或いは進化したのか?)。アルファは感情の起伏が緩やかなので、その耳が朱色に染まることも無いので血が通っているかどうかも怪しいものだ。前に作り物かと思って指先で触れてみれば冷たいけれど私と同じような感触がして、軟骨の柔らかさが伝わったので作り物ではないと断定した。「また、耳を見ているな。今日で五度目だ」ハイライトの入っていない、感情の無い瞳が私を映してぼそりと呟いた。「よくわかったね……。って、そんなに見ていたっけ?!」私は耳、なんて単語を今日一言も言っていないし、何の会話もしていなかったので益々驚いてしまった。感情は相変わらずあまり見えないのだが、ほんの少しだけ頬の筋肉が緩んだように感じた。「……耳に視線が集中している気がした。それから、自覚があるかもしれないが、以前から耳を気にしている傾向にある」「あー……成る程。それで、耳を気にしていると?」そんなに凝視していたつもりは無かったのだが、本人は溢れんばかりの物を感じたようで「イエス」とだけ言った。



「かじっ「ノー。駄目だ」私の願望の全貌が見えたのだろうか。拒絶された。まだ、全てを話していないうちから決め付けて!と憤りを感じずにはいられなかったのだが、アルファは私の言いたいことを理解している様子だったので、口ごもった。何一つ間違いが無いというのも困りものだ。まったく反論の余地を残してくれない。「ちょっとだけ」「ノー」「けち!無理やりにでもやってやるぞ!」脅し文句のつもりだったのだが、アルファは顔色一つ変えることなく「……実力で負けるのならば仕方がない。敗者は文句を言えない」と言ってのけた。詰りは、私が万が一アルファに勝てるのならばアルファはそれを受け入れるという事か。男らしくて潔いが……潔いけれども!「勝てるわけないじゃん!勝率低い!」「やってみなければわからない」嘘つけ!アルファだって、勝敗見えているだろうに!現に余裕だから私に対してそんな挑発的なことを言っているんだろ、違いない。勝率が低いのならばわざわざ不利になるようなことは言う必要もないのだから。



くそぅ、私が勝てるわけないとか絶対思っていやがるな、その涼しげな顔(と主に尖った耳)を染めてやる!と歯をギリリと食いしばりアルファに不意打ちで飛びかかった。避けられるまい!ふはは!などと勝手に思っていたのだが、私が先手を打って攻撃を仕掛けると予測していたのか手を大きく広げて、体を閉じ込めた。動きを封じられた私は、もがくしかなかった。なんてこった、脱出できない。「甘いな。勝てるとでも思ったか」「……不意打ちなら勝てるなどと思っていた時もありました」そう、先ほどまでだ。うん、もう思っていないよ……流石リーダー。「卑怯だな」当たり前のことを言われたはずなのに、胸にその言葉が刺さった。「ところで頬や耳が赤いが、痛むのか?」「え、あ」この状況に対して素直に反応してしまうなんて、憎い!本当はアルファを染めてやるつもりだったのに。「……熱を帯びているな」「離せば自然治癒する素晴らしい生き物です」人間の力を侮ってはいけない、だから、大人しく離して私にもう一度チャンスをとアルファを諭してみたが作った冷笑を浮かべて「ノー、離す気は無い。私が治してやろう」と一蹴されてしまった。このままでは確実に由々しき事態に発展してしまう気がするのだが、何分アルファが前述したように、敗者は文句を言えないようだ。(勿論敗者は私)



カプ、耳を温かな物が覆った。それがアルファの口と舌だと気付いては居たが、逃げようも無くてそれを、声を殺しながら受け入れるしかなかった。「くっ、……ん、ア、ルファ」何の反応も示さずに、温い水音を響かせて舌で舐めたり、甘く噛んだり刺激を与えてくる。段々、足の方から骨抜きにされていく。背筋を素早く駆け抜けていくような、変な気分だ。「……治らないな。寧ろ悪化した」ようやく口を離したかと思えばわざとらしい演技がかった口調で腹が立った。また、噛みつこうとして来たので渾身の力を込めてアルファに力を加えた。アルファなら予測済みで若しかしたら駄目かもしれないとか思ったが、珍しくそのまま「なっ?!」とか声を張り上げて、地面に伏してしまった。私がアルファを押し倒したような形になっている。「……珍しいね?」「……油断していた。というよりも、随分とよさそうな顔をしていたので、無理だろうという判断に至っていた」自分の計算ミスだと、嘆くように呻いた。



「勝ったと、思い込んでいたんだね」それはそれは、まことに残念だ事。そのまま、アルファの顔の横に一度だけ頬を寄せてから、カプリと耳を咥えた。やっぱり普通の人の耳で作り物のようには感じない。ひたすら求めるように、アルファの耳を噛んだり舐めたりを繰り返していたが「っ、」控えめな押し殺した声に、顔をあげてみた。アルファの顔が僅かに赤みを帯びていて一度も構うことの無かった右耳も真っ赤になっていた(噛んでいたほうは言わずとも)。「なんだ、アルファも一応生きているんだね」「……理解不能だ」今の顔はとても人間らしいよと笑った。他の子にもやってみようかな。「ノー、駄目だ」辛うじてそう聞こえた。ああ、またお得意の読心術ですか。取り敢えずその顔じゃ、威厳も何もないんだけどさ。「それにしても、無理矢理引きはがすこともできたでしょ、アルファ優しいね」「怪我をされたら困るからだ。一応言っておくが、後でどうなっても自己責任だ」おー、怖い。嫌な脅し文句だこと。おどけて見せて、またアルファの耳に噛り付いた。どうせ今、身を引いても無駄でしょ。自分の身を案じたい気もするけれど、どうせならもう少し優位に立っていたい。


title Chien11

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