ハッピーエンドは望まない



雅野君、怖い。多分、ヤンデレ気味。関係性はただのマネージャー、先輩後輩で龍崎が恋人。雅野は片思い。



例えば貴女が龍崎ではなくて俺のことを好いていて、龍崎達との別れをただ純然に惜しみ、裏切り者だったことに対して虚しさを感じているだけならば、俺はもっと優しい言葉をかけただろうか。わぁわぁと隠すことも無く泣いて龍崎に縋りついていた名前先輩にかけた言葉が人間として何かが、欠けているということくらい十分に承知していたことだった。「裏切り者に、なんで縋りついて泣いたんですか」そんなに龍崎が好きだったんですか。って言葉は喉元に魚の骨のように突っかかったまま、出てくることはなかった。キッと俺を真っ赤になった目で睨みつけて「当たり前じゃない!皇児は私の」その先の言葉を俺は知っていた。聞きたくもない事実だった。嘘だといいのに。「俺には理解が出来ません。あいつはフィフスセクターの裏切り者だったじゃないですか。きっと、先輩の事も遊びだったんですよ。現に貴女はあいつがフィフスの人間と知らなかった」名前先輩はそれきり、言葉を詰まらせて俯いた。俺に平手打ちでもしようとしたのか、震える右手を押さえつけた。「違う、皇児はそんなこと」あーあー、本当に麗しい愛ですね。反吐が出そうです。



何度も何度も言いたいことを熟考したはずなのに、出てくるのは変わらない。先輩を追い詰めるような言葉ばかりだった。だって、貴女がいけないんですよ。裏切り者の事を考えて、名前を呼んで、想うから。だから、優しい言葉が出てこない。「やめてください、気分が悪くなります」「……私も」「何ですか」肩が震えていた、此処で俺が抱きしめたらどうなるんだろう、俺を好きになってくれるだろうか、なんて……。「皇児と一緒にやめる、マネージャーやめる……」俺はその言葉にカッとなってしまって思わず短い悲鳴をあげる名前先輩もお構いなしに、腕を掴んでしまった。顔をあげ強張る名前先輩、俺と同じくらいの目線。



「貴女も裏切り者なんですか?名前先輩はフィフスから送られた人間じゃない、違いますか?」「私は、フィフスじゃない……」ほらみろ。フィフスセクターの人間はあいつらだけだ。……まあ、俺は知っていて、敢えて名前先輩にわざと聞いたんだけど。ああ、でもフィフスでも俺は構わなかったんですよ。そうしたら、貴女を非難して個人的に手元に置くなんて乱暴な事も出来たかもしれませんからね。ああ、それいいなぁ!「じゃあ、やめないでくださいよ。そんなの、俺が許さない。あいつの為に抜けるなんて俺が許さない」ギチギチ、心臓をじわじわとゆっくり弱火で炙っているような気すらした。叫びだしたくて、自分の心臓を投げ出したくなる!御門も快くなんか思ってなんか居なかったけど、龍崎の奴も大嫌いだ。俺から名前先輩を奪うフィフスの奴なんて。心を巣食うこれは何だろうか、これが良い物ではないのはわかる。ただただイラつく。「先輩、なんで泣くんですか」まつ毛に細かい、雫を乗せた名前先輩の潤沢の瞳からポタポタ垂れていく涙を指先で掬う。「また、あいつのせいで泣いているんですか。本当にあいつは最低ですね。名前先輩を泣かせるなんて。それよりも、名前先輩は俺を何処まで怒らせれば気が済むんですか?」「うぅ、あああ、皇児ぃ……」なんで、俺の事を呼んでくれないんです、か。俺なら、フィフスじゃないから追放されないのに。貴女の傍にずっと居てあげるのに。どうして、その目は俺を映さないんだ。



「皇児ぃ、皇児……っああ、」ああ、しつこい、煩い、残響だ。あいつの名前はもう聞きたくない、聞き飽きた。そうだ、煩かったからだ。煩かったから塞いだまでなんだ。だって、永遠と続きそうだったから。終わりが見えなかったから。それが理由ってことにしておいてくださいよ。それからいい加減あいつの名前を呼ぶのとあいつの為に涙を流すのはやめてくださいよ。とても、イラつくんです。(でも、貴女の泣き顔はなんだか、胸が苦しいのです)このイラつきを貴女は知っていますか?俺はこの焦燥感を未だに、把握しきれていないのです。少なくとも、ぐらぐら煮えたぎるようなこの底の見えないような仄暗い感情が、綺麗な感情ではない事はわかるのですけどね。ただ、好きと言うには重すぎる(汚すぎる)そこには純粋さなど一つもない。言い訳をさせてください、俺は貴女がどうしようもなく好きなのです。そして貴女も俺もきっとこの感情の犠牲者なのです。



title 箱庭

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