泡に成りたい人魚姫



この足が痛むのは、偽物の足だから。鋭利な刃物で足の裏をグリグリと抉るような鋭い痛みは、歩くたびに起こる。愛を伝えたくてもこの声が出ないのは、声を足に変えたから。足は涙を流すように、ザリザリ鱗がこすれる。地面に血と鱗を残して嘆く。足は偽物で自分は人間ではないのだということの証明。あの人の心は名前にはあるのだろうか?恐らくないだろう。そして、名前に残された時間はもうない。(隼総様)名前を呟きたくても掠れた音に成るだけで、意味にはならなかった。ゆらゆら揺れる甲板の上、若干かけた月が大きく水面に移った。それをかき消すように、揺らいだ。波紋が広がる「これで、あいつを殺せばいい。そうしたら、お前は助かる」(星降……無理だよ)どうやら、星降達には言葉が理解できるらしく首を横に振るばかりの名前を無理に諭して渡したのは、短剣だった。「俺らは名前の方が大切だ」「そうだよぉ、一思いにやっちゃってよぉ」「こら、西野空!不謹慎だぞ」喜多がぽかりと西野空の頭を叩いて、海面に沈めた。頷けなかったがずっしりと重たく感じる短剣を受け取った。(愛した人を殺せるわけがないのに……)



「これは、……あれか。夜這いか、嬉しいけれど順序はあるよな。……まあ、名前が望むのならば」(物語の破綻だー!)どうしてこうなった!状態の刃物を持ったままである名前の後ろから羽交い絞めにする隼総は鼻息を荒くして拘束を強めている。一方の名前は余計に困惑してしまう様子で、拘束を無理矢理に解いて甲板に痛む足もお構いなしに逃げ出した。「名前どうだった……って、どういうことぉ?!」(私にもわからないいい!)「なんで逃げるんだよ!誘っておいてそれは無い!俺の下の責任を取れ!」相変わらずキャラ崩壊の激しい隼総が後ろから追いかけてきてがっしりと今度こそしっかりとホールドした。(あんなにクールだと思っていた隼総さんが……)「え、何……クール?そんな風に考えていてくれたのか」何故か名前の言葉がわかるのか、隼総が返事をする。「よくわからないけど、名前の運命の人じゃないという事だけはわかるぞ」喜多が冷静にそういって何度もうんうんと頷いた。「どうでもいいけどぉ、僕達にも触れてよねぇ」「ん?……何、お前ら魚人?」「えっ!どう考えても人魚だろう!魚人とか悪い方に取りやがって」「人魚ってより魚人だろ。半魚人っていうの?はっ」鼻で笑ってそれじゃあ見世物にしかならないと言うと西野空が噛みついた。「お、おれ……魚人だったんだ……名前と同じ人魚だと思っていた……」「喜多が落ち込んでいるぅ……。喜多を苛めるなしーぃ」「そうだそうだ」星降が同乗して隼総を責めると隼総が声を詰まらせた。



「大体、おまえだろ!かぐや姫!てめぇ何名前に危ない物持たせているんだ。ヤンデレかと思ったじゃねーか!」どうやら怒っているのは短剣の事らしく、短剣をぽいと星降めがけて投げ捨てようとしたので名前が止めた。「いいじゃん。ヤンデレ。死ぬほど名前に愛されるならそれも一つの愛の形……ってかぐや姫だと!こんの……親指姫がっ!」「どんな罵倒?!」かぐや姫と言われたことに大変ご立腹の様でよくわからない罵倒を投げかけた。流石の隼総も意味が分からなくて困惑している様子だった。「な、何だよ……親指姫って!」「あそこが親指サイズって意味だよ。やーい」全ての糸がつながって理解を示した隼総が激昂した。「ふざけるなあっ!俺は親指サイズじゃない!てめえが親指だ!死ね!」



「俺はかぐや姫だからな。サイズはあれだ……名前を満足させられるだけはあるね。ていうことで今晩どう?いや、今晩と言わず、明日明後日も……いだっ!」「それ以上は言うな!動く十八禁!」純情な喜多がそれ以上は聞きたくないと言わんばかりに星降の鱗を引き千切った。血が滲んで海を少しだけ赤く染めたがそれ以上に赤い喜多を見て星降もそれ以上は言えずにただ、むしられた部分を止血するように手で強く押さえつけた。ついでに上空に居る隼総も睨みながら。「ははっ、ざまぁ。俺だって名前を満足させられ……へぶっ!」バシャと海水を容赦なく喜多に掛けられた。「下ネタから離れろと言ったのが聞こえないのか?!」



「ははぁん。つまり、俺とキスが出来れば泡に成らずに済むんだな。そうか、それくらいならお安い御用だ」(そういうことですお安くない御用だとは思いますが。私には時間が残されていません)名前が頑張ってわかりやすく一から時間が無いのにも関わらず体を張って事情を説明した所ようやく全ての事の次第を、飲み込んだのだった。ただし、この話には反発があった。「ハァ?!何言っているの?!こんな変態に渡せるわけないだろぉ!僕としよーよぉ!気持ちよくさせてあげるよぉ〜」「煩い黙れ魚人共が、帰れ。俺とに決まっているだろ」「何だと!変態王子め。こんなのに一国を任せていいのか……?名前さえよければ俺とじゃ駄目か……?こいつよりはマシだと思うんだけど」「やーい、親指姫〜。ていうことで俺としよう。それが一番いい。ベストな選択」段々騒がしくなってくる彼らを見て名前が嘆息した。これらの事態は中々収拾がつかないのだ。経験上名前が一番よく知っていることであった。(もう、いっそのこと泡になったほうが早いかも)

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