アタラクシア



アルファが恋人で夢主←ベータ。マインドコントロールされる。ベータさんが極悪でえげつない。

次のお話


アルファがムゲン牢獄送りになった。私はムゲン牢獄送りを免れたが、喜べなかった。レイザちゃんやエイナム君も免れたが、仲間数人もムゲン牢獄に送られてしまった。新たにチームのリーダーに就任したのは、ベータ様という女の子でちょっと怖い子。でも、実力は本物のようだった。あの力には誰一人、逆らおうという人はいなかった。ただレイザちゃんやエイナム君たちはアルファに忠誠を誓っているようで、ベータ様には上辺だけの忠誠を見せている。ベータ様も私たちの態度をなんとなく理解しているようだったが、深くは突っ込んでこない。レイザちゃんが部屋で今日も落ち込んでいる私の元へやってきた。「……泣いているのか?」



最初にかけられた言葉が、優しさに満ちていて私は首を横に振った。悲しいのは、私だけなんかじゃないって知っていたから余計に。それでも「……泣いてもいい、名前の立場は私たちとは違った」「う、ぇ、レイザちゃ、ん」ほら、と両手を広げた。どうしろとは言わなかったけれど、私はレイザちゃんの腕の中に飛び込んだ。「残酷な事、だ」愛し合っていたというのに離れ離れにするなどとは、許されない所業だ。と耳鳴りがする中で聞こえてきた。「近々、エイナム達と私、単独であいつらにバトルを挑んでくる。お前も来るな?」残留したメンバーは私を含めて六人だ。マスターの指示だろうか、と見上げたところで否定した。「……許可は取らない」「それっ、て」レイザちゃんが、抱きしめながらああと頷いた。「……助けよう、残った私たちで」レイザちゃんに発奮され、力強く答えた。「うん!」「エイナム達と詳しいことを決めたらまた、来るから」だから、泣き止んでくれ。お前も私にとって大切な人間の一人だと、瞳を細めた。レイザちゃんも辛いはずなのに、レイザちゃんは強い女の子だ。



泣き止んだのを見届けた後に、レイザちゃんが頭を撫でて部屋を出て行った。一人残るとまた、寂しくなった。アルファが沢山、頭を占めていて辛い。ムゲン牢獄に送られそうになった時、アルファがあそこに行くくらいならば、私も!と言ったのにアルファは首を横に振った。それから、全てを享受するように抵抗する素振りを見せなかった。それどころか私を庇うような発言までするものだから余計に、絶望した。「名前さぁーん。いらっしゃいますよね?」ノックの音と共に、ベータ様の声が聞こえた。猫を撫でたような媚びたような声。それでも、ゾクリと何かが背中をかけていく。全身の毛が逆立つのを感じる。「は、はい」強制的に返事をさせられた気すらする。「入ってもいいですかぁ?」有無を言わせないような強い力を感じる。私は、再度震えた声で了承した。



「あら、また泣いていたんですか?可哀想にあの男のせいですよね」弱いって本当に罪ね。アルファを責めるような口調で瞳を細めた。「私ならば、あんな無様に負けたりしないんですけど」言い返せないのは、私はこの方を恐れているからに違いない。アルファは弱くなんかない。私よりもよっぽど強かった。本来ならば、私の方が送られても仕方ないと思える程に。「……、忘れちゃったらどうですか、今のままだと辛いじゃないですか」「忘れる?」思わず聞き返した。忘れられるわけがないのに、何を言っているの。見上げると口が動いた。「そうです!うふふ、良い考えね」そういって抱えていたサッカーボールを私に向けた。嫌な予感というものだろうか。これから、ベータ様が何をしようとしているのかに気が付いたのだ。あれは普通のボールではない。アルファの持っていたものと同じだ。



ポンとベータ様がサッカーボールを手で軽く押した。黄色い光が包む。『マインドコントロールモード』と機械的な女性の声が聞こえた。やはり、だ。今の悲しみに暮れた状態でそんなことされたら、アルファへの思いが捻じ曲げられてしまうかもしれない。折角レイザちゃんたちとアルファを助けに行こうって話までしたのに。この気持ちを忘れたくなんかない。「……い、いや」私が拒絶して、逃げようとした体を捕まえた。抵抗はしたのだが虚しくなるほどに簡単に捕まってしまった。非力な自分に嫌気がさした。「逃げようったって無駄ですよ〜。名前さんは私の物ですもの」



「あら、マスターが呼んでいますね。なんて、タイミングの良い事。まるで邪魔をしているようですね……ふふ、すぐに戻ってきますからね名前さん」ベータ様が穏やかな口調と顔を湛えたまま、サッカーボールを片手に退出していった。なんで泣いていたのかよくわからなくなった。赤い目をごしごしと擦った。「ん、と。レイザちゃんに断ろう」足取りは妙に軽かった。久々に清々しいとすら思える程に心も軽い。レイザちゃんの居る、部屋をノックした。「レイザちゃん〜」私の明るい声に素早くドアが開いた。それから、私の様子を見て、不審そうにレイザちゃんが私を見つめた。「……様子が変だな」立ったままで申し訳なく思ったが部屋の入り口で要件をさっさと言った。「そう?ああ!さっきの話だけどね!私はいかないことにしたの」レイザちゃんの目が大きく見開いた。理解に苦しむと言わんばかりに「何を言っているんだ!お前だって」掴みかかってこようとする。レイザちゃんを落ち着かせるように、笑った。「もう、いいの。忘れることにしたの」



「いつまでも過去に縋りついていても前には進めないし、それにいなくなった人の事いつまでも考えていても仕方ないでしょう」「嘘だ、名前はそんなことを言わない!お前何をされた?!あの女だな?!」私はそんなことを言わない?言うよ。私の意思で言ったじゃない。「……ベータ様の事?」丁度ベータ様と、口にしたときにひょこっと私の顔をベータ様が覗き込んだ。「こんなとこに居た!もうどこに行ったのかと心配しちゃったじゃないですか〜。すぐに戻ると言ったのに」「!」「あ、ベータ様すみません。少し約束忘れていたもので」さあ、部屋に戻りましょう。一度レイザちゃんを睨むように優しげな眼を細め一瞥した。それから、私の手を引いた。「くそっ、取り戻して必ず目を覚まさせてやるから」レイザちゃんの声が遠くなっていった。「忘れるのは罪じゃないですよね、気持ちが薄れることだって当然です。離れていればなおの事。なのにあんなに怒っちゃって変ですねぇ」私の言ったことは正しいと、ベータ様は言ってくれた。……後半はレイザちゃんの事を指しているのだろうか。それにしても途中から来たはずなのになんで細部まで知っているかのような口ぶりなのだろう。可笑しいなぁ、と首を傾げたときにベータ様が私の名前を呼んだ。「ねえ、名前さん」「はい?」「貴女が好きになっちゃいました」空っぽの心を満たすように、言葉が満ちて行った。



title 箱庭


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -