ブーゲンビリアを打ち捨てるだけ



10年後の夏未さん←夢主の片思い続行中。


薄い茶色の紅茶を少しだけすすった。夏未の髪の毛の色のような紅茶は冷めていて、紅茶に溶かされた粉砂糖の甘みだけが口内に満たされる。体内に蓄積する。(私の恋も冷めればいいのに)夏未が笑う。円堂君と一緒になってから、彼女は……随分と幸せそうな表情を浮かべるようになった。私が与える幸福や感情を円堂君の十分の一、いや、それ以下も与えられていないという事実が顕著に表れている!中学のころから、夏未は美人だったけれど……驚くほどに美しく成長したものだ。会うたびに、私はほぅと熱を帯びた吐息を吐き出す。私は夏未が好きだった。だった、というのはある意味間違っているけれど仕方がない。本当は今も好きだけど……だって、彼女はもう、円堂君のもので私の手の届かないところへ行ってしまったのだから。契りを交わした男女の仲を引き裂くなんて法律でも許されない事柄だ。だから今でも好きだけど、諦めざるを得ない。決して口にしてはいけない。そんな状況なのだ。だから、ああいう言い方をしたのだ。手を伸ばせば、触れられるのにしないのはそのせいだ。現にこの距離は、友達に対する距離だ。大切な人の二番目に近い距離にいる。それなのに。私なんかでは触れちゃいけないのだ。



そんな、私の気持なんか知らずに夏未は笑う。鷹揚と口元だけを持ち上げて、目を優しげに細める。夏未の性格も穏やかになったと思う。でも、変えたのはやっぱり、私なんかじゃない。「名前は、今……そういう人はいないのかしら?」って、いるわけがない。だって、夏未のことが忘れられない。忘れたいのに。夏未以上に素敵な女性を私は知らないから。未だに夏未を、諦めきることができない。ううん、夏未は私が同性愛者だということすら知らない。だから、夏未を好きだという事実すらも夏未の中には存在しないのだ。紅茶の入ったティーカップをテーブルに置いて、笑顔を無理に作り出す。「うん。理想が高いのかな?この間別れてしまって」笑う。(面白くなんかない、楽しくなんかない、それでも)必死で取り繕うように笑った。違う、違う。そもそも、夏未以外を好きになったことが無い!ただの一度も!私の時はあれからずっとずっと止まったまま動かない。砂時計の砂は詰まってしまって動けないのに!誰が時計を直すの?私は直せない、夏未は直せない。



ほら、早く笑えよ!笑わなきゃ!おかしい!痛い。口元が引き攣る、喉が鳴って跳ねた。夏未もつられたように笑う。それを合図に感情が逆流しだす。(何も知らないくせに、知らないくせに)愛しさと、憎しみがあまりにも近すぎる。紙一重とはよく言ったものだ。薄い紙きれのような皮一枚で私は保っている、笑顔も感情も言葉も私を形成するすべてが。夏未は絶対に手に入らない、だけど、私は夏未以外の人を好きになれない。私は「夏未を好きだ」って言う権利すらも失いつつあるのに、円堂君がうらやましくて、悔しくて、悲しくて、憎くて。それを押し殺して友人を演じ続ける私は、アホみたいに笑うことしかできない。(それしかできないのに)また、ティーカップを手にして喉に流し込む。もう、味なんか感じられない。ただの、甘い味を付けた水。ああ、私は今ちゃんと夏未に対して、笑えていますか。(友達を演じなければならないのにも関わらず、それすらも最近は苦痛なのです)せめて、憎しみが愛を超えないうちに終止符を貴女の手で直接打ってください。



そうじゃなきゃ、私の恋心が救われない。そうじゃなきゃ、私が救われない。

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