対極感情



!安定の夜桜不安定。なんか性描写っぽいけど、直接はないからこっちで。嫌な人は逃げてください。15推かも。



俺の癖なんだろう。何度言っても、注意を受けても無駄だった。気が付けば無意識にやっていた。「いた、っ……」名前が痛みの声を上げると、俺は正気を取り戻した。名前の二の腕に目を向ければ血が滲んでいた。それから俺の歯型。ぴったりと合う、歯型。甘噛みとかそういうレベルではない、肉を噛み千切るような強さで俺が噛みついたのだ。俺は泣きそうになりながら必死に今度はその傷を治す動物のようにペロペロと労わるように舐める。「ごめん、ごめんね、ごめんね。痛かった?痛かったよね?」先ほどまでの怡楽を孕んだ瞳とは違う、今度は泣きながら繰り返し謝って痛みを緩和する。こんなんで傷が消えないのを知っていながら、俺は腕に滲んだ血を吸ったり、なめたりを繰り返す。「ごめん……ん、むっ……」



俺が謝り続けていたのを不憫に思ったのか、半ば無理に唇をふさがれた。名前が俺の瞳をじっと見据えていた。「もういいよ、夜桜」もういい、もういいって、どういうこと?俺が何度言ってもやめられないから、もういいってこと?諦め?それとも、もう俺なんかいやなの?俺は見捨てられた?数秒のうちに言葉の意味を理解して俺は名前に謝った。「ぇ……ぁ、あはっ……嫌だ、ごめん、ごめんなさい。ごめんね。許して、もうしないから、もうしない。約束する!誓うから!痛いよね、ごめんね」



俺が癖で一度ひきつったように笑った後に、こらえきれずに泣く。名前に捨てられたら、俺はどうしたらいいんだ。どうしてよいかわからずに、わぁわぁ泣いていたら名前が俺の頭を撫でてくれた。それから、ギュと胸に俺を抱く。「謝らなくていいよ、これはいつか治るから。意味を履き違えないで」嘘だ。都合のいい嘘だ。俺が付けた、この歯型……傷は治ったためしがない。俺はいつも噛んでしまうから、痕は消えない。それでも、今の俺を安定させるだけの力を持っていた。



「よかったぁ!」先ほどまで泣いていたから、まだ涙の跡もあるし、真っ赤に腫れているけどそんなことも、気にせずに笑った。名前が許してくれたという事実が俺にとっては救いだった。どんな言葉よりも、何よりも。「続けていい?許してくれたなら、いいよね?」名前がいいよ。と言わないうちから胸をぐにぐに押しつぶす。俺の手のひらで形を歪められて、原形をとどめていない。名前が突然のことに驚き、喘ぎ声をあげた。「やあっ、よ、ざ……っくらぁ」名前の唇にキスをして、酸素を取り込もうとするのを阻む。くぐもった声に、俺が熱の籠った息を吐き出した。太ももを手のひらで往復させるとビクリと体が揺れた。



太ももに無意識のうちに顔を近づけていた、普段日に晒されていなくて白い太ももに舌をツーと這わせるとビクビク体が震える。俺は名前のすべすべの太ももを堪能することにした。舐めたり、吸ったりを繰り返す。「っ……よ、ざくらぁ。いた……い」また、名前が先ほどと同じ意味を持った言葉をつぶやいた。白い太ももにくっきりついた、赤い歯型。内出血をしてしまっている。ああ、俺はまた、やってしまったんだって悟った。俺のせいだ。「ごめ、また、やっちゃった……。ごめんね。ごめんね。わざとじゃない」



なんで、俺は何度もこりもせず、学習もせずにやってしまうんだろう。いい加減学習してもいいだろうに、行為はこれが初めてじゃないのだから。一度や二度じゃない。名前が大好きなのに(大好き)、優しくしたい(のに傷つけたい!痛いって声が、歪む顔が見たい)、愛しているって沢山言ってあげたい。(でも、優しくしたい、労わりたい、気持ちよくしてあげたい)気持ちは優しくしたいってほうが勝っているはずなのに。結局、俺は名前を傷つけている。これは事実だ。常に葛藤し鬩ぎ合っている。



「……俺、俺。違うのに、違う……違うのに。こんなつもりじゃ……っ、う、ぅああ……名前、名前……ごめんなァ……!」助けを求めたって、名前に助けられるわけがないのに俺はいつも名前に無理なことを言っていた。名前は優しく俺を抱いて、よしよし、って撫でてくれるから好きだ。それなのに、俺は名前を傷つけてばかりだ。対極の感情が消えない。「夜桜、大丈夫だから、落ち着いて?ね?」名前が宥めてくれる。優しくて暖かな名前に埋もれていた俺は、どうしようもない弱虫だった。

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